法蔵飛魂

「・・・いずれにしても、馬田重史、長瀬啓志、玉井要蔵、船井肇の線は、とてもじゃないが、おれたち風情では太刀打ちできない。・・・かりに真実が分かったとしても、週刊誌ネタになる程度で、・・・ひょっとしたら実行犯が検挙できるかも知れないが、警察組織にとっては、おそらくキャリア組にとっては、なんの手柄にもならない事案だ。実行犯はトカゲのしっぽで、おそらく本陣には到達できないだろう。かりに、本陣が見えたとしてもすべては時効のはずだ。・・・こういう事案は五年とか十年に一度、お目にかかれるが、大体いつも幕引きは同じだ。・・・うやむやのうちに終わる」
 土岐は海野の話を半分聞きながら、仁美に対する自分の感情を吟味していた。
「見城仁美を落とすにしても、彼女はけんもほろろで、とりつく島がないんですよ」
「・・・そりゃそうだ。・・・おまえさん、相手を落とすには、相手が一番欲しがっているものを与えなきゃだめだよ。・・・あの子はものほしげな、そういう顔をしている」
「カネですか?」
「・・・それもあるが、・・・おまえさんにはないだろう」
「じゃあ、ぼくには落とせないということですか?」
「・・・情愛だよ。これはカネに代え難い。彼女は愛してやるに値する。どんな女でもそうだ。誰だって愛してやるに値する。ただ、一人の男が愛して落とせるのは一人の女だけなんだ。だからおれにはできない。しかし、おまえにはできる」
「でも、そもそも仁美はどうして目撃証言をしたんでしょうかね」
「・・・現場検証の時、現場に仁美がいた。他にも何人かいたが野次馬だった。仁美は『代替交通機関がないので、現場検証が終わって、復旧するのを待っていた』と言っていた」
「仁美が弘毅殺害に関与していたとすれば、逃げるはずですよね。現場にずっと残っていたということは、関与していないということですね」
「・・・どうかな。逆かもしれない。現場に残り、目撃証言で他の人間に関与をなすりつける。そうだとすれば、最初に証言した、割り込んできてよろめいた男は無関係だったということになる。しかし、似顔絵に関する情報は後から証言を申し出てきたバイト学生と一致している」
 土岐は生ビールの底を見つめた。もう一粒の気泡も浮かび上がってこない。麦茶のような液体だ。