と言いながら海野は店内を見回す。土岐は海野の横顔に話しかけた。
「ふたりの子どもたちはいま何をしているんですか?」
「長女の金田民子は不動産管理、長男の廣川浩司は、高校で公民の先生をやっている」
そこで、海野は二杯目の生ビールを注文した。おつまみは冷奴だ。土岐はまだ半分ぐらい残っている。
そのとき、五、六人のサラリーマン風の連中が店になだれ込んできた。常連のような馴れ馴れしい態度だった。傍若無人に大声を出している。
土岐と海野の追加注文を待って遠巻きに待機していた店員たちが、一斉にかれらの周りに群がり寄って行った。
土岐はそれを無表情に眼の端だけで追っていた。
「茅場町駅の駅員の田辺の話では、目撃者がいたそうで・・・」
と土岐は割り箸を置いて、様子を窺うようにして海野に聞く。
「見城仁美というコケティッシュなOLだ。老人が二人一番前に立っていて、年齢不詳の男が通り過ぎたあと、その二人が急に前に倒れこんだそうだ。これが彼女の連絡先だ」
と言いながら海野は携帯電話番号の書いてある市販の手帳のページを指をなめて開いた。
土岐がそれを自分の手帳に写そうとすると、海野は手帳をあわてて引っ込めた。ヤニ色の格天井を見上げ、しばらく黙り、目線をぎょろりと土岐に向けた。
「名前だけで、・・・連絡先は勘弁してくれ」
土岐は素早く手帳に、
〈見城仁美・東陽町〉
とメモした。
「と言うことは、そのもう一人の老人が実行犯ということですかね」
と海野の皺深い眉間を見た。
「二人の老人が倒れこむ直前、列の間に割り込んで通り抜けようとした男がいた」
「助かりました。・・・今後とも宜しくお願いします」
「今後ともと、言われてもあんたにそれほどの接待交際費の予算があるとも思えない」
「恥ずかしながら、その通りです。・・・年中、自転車操業です」
「このまま行けば、自殺処理を強要される。しかし、おれは他殺とにらんでいる。そこであんたに協力してやろう。・・・警察の情報網を利用させてやろう」
そういいながら、海野は初めてじっくりと土岐の眼を捉えた。土岐は察した。
「交換条件はなんですか?」
「・・・条件ということではないが、来年の四月に共同事務所を開かないか?」
と海野は土岐の顔をじっと見つめる。土岐はすぐ目線をテーブルに落とした。
「ふたりの子どもたちはいま何をしているんですか?」
「長女の金田民子は不動産管理、長男の廣川浩司は、高校で公民の先生をやっている」
そこで、海野は二杯目の生ビールを注文した。おつまみは冷奴だ。土岐はまだ半分ぐらい残っている。
そのとき、五、六人のサラリーマン風の連中が店になだれ込んできた。常連のような馴れ馴れしい態度だった。傍若無人に大声を出している。
土岐と海野の追加注文を待って遠巻きに待機していた店員たちが、一斉にかれらの周りに群がり寄って行った。
土岐はそれを無表情に眼の端だけで追っていた。
「茅場町駅の駅員の田辺の話では、目撃者がいたそうで・・・」
と土岐は割り箸を置いて、様子を窺うようにして海野に聞く。
「見城仁美というコケティッシュなOLだ。老人が二人一番前に立っていて、年齢不詳の男が通り過ぎたあと、その二人が急に前に倒れこんだそうだ。これが彼女の連絡先だ」
と言いながら海野は携帯電話番号の書いてある市販の手帳のページを指をなめて開いた。
土岐がそれを自分の手帳に写そうとすると、海野は手帳をあわてて引っ込めた。ヤニ色の格天井を見上げ、しばらく黙り、目線をぎょろりと土岐に向けた。
「名前だけで、・・・連絡先は勘弁してくれ」
土岐は素早く手帳に、
〈見城仁美・東陽町〉
とメモした。
「と言うことは、そのもう一人の老人が実行犯ということですかね」
と海野の皺深い眉間を見た。
「二人の老人が倒れこむ直前、列の間に割り込んで通り抜けようとした男がいた」
「助かりました。・・・今後とも宜しくお願いします」
「今後ともと、言われてもあんたにそれほどの接待交際費の予算があるとも思えない」
「恥ずかしながら、その通りです。・・・年中、自転車操業です」
「このまま行けば、自殺処理を強要される。しかし、おれは他殺とにらんでいる。そこであんたに協力してやろう。・・・警察の情報網を利用させてやろう」
そういいながら、海野は初めてじっくりと土岐の眼を捉えた。土岐は察した。
「交換条件はなんですか?」
「・・・条件ということではないが、来年の四月に共同事務所を開かないか?」
と海野は土岐の顔をじっと見つめる。土岐はすぐ目線をテーブルに落とした。