法蔵飛魂

「・・・そう。まあ、緊急の初動捜査や人手の足りない時には駆り出されるが、いまのところ警察組織の威信をかけるような重大な事案がないんで、それ以外は昔の書類の閲覧だ。はなぶくちょうちんで居眠りばかりしている。まあ定年まであと半年もないから、安楽死というか、重要な事案は引きずらないように、というお偉いさんのありがたいご配慮だ」
 注文取りが来たので、海野は前回と全く同じものを注文した。土岐はどうでもよかったので、海野にまかせた。土岐は待ちきれないように話し出した。
「見城仁美の証言で自殺に処理されたようですが、偽証であることが証明できます」
「・・・ほう。それはたしたもんだ」
と言い放って、海野は土岐の説明を待っている。土岐は躊躇している。土岐の情報がUSライフの大野直子に筒抜けだとすれば、民事で隠し玉として使えなくなる。
「言ってもいいんですが、大野直子の話がちょっと気になっていまして・・・」
「・・・会ったのか、あの色っぽいねえちゃんに・・・」
「彼女が言うには、海野さんはUSライフの嘱託に内定したとか・・・」
「・・・そのことか・・・まあ、内定は被雇用者が蹴っても企業側は損害賠償請求はできないという判例がある。・・・彼女に対して、おれが内定に承諾したと思わせる受け答えをしたというのが正確なところだ」
「と、言うことは・・・」
「・・・おまえは人を見る目がないな。おれがこの年でなんで警部補だか、まったく理解していない。定年間際で、いまだに警部補なんていう刑事はまずお目にかかれないぞ。懲罰的な意味合いで警部補に留めおく、というケースもあるが、おれの場合は最後までとうとう組織になじめなかったというケースだ。警察に入ったころから、上司の意向にはことごとく反抗してきた。とくに自分の手柄を立てようとする上司には徹底的に逆らった。部下のやったことを自分の手柄にして、上役にアッピールし、出世を画策し、部下をどこまでも利用し、平気なつらをしている奴を見ると反吐が出た。一将功成り万骨枯るだ。そういうおれがUSライフのような組織になじむと思うか?嘱託であれ、正社員であれ、組織に属すれば、命令に従わなければならない。・・・それに、あのねえちゃんにUSライフの嘱託を了承したと思わせとけば、保険会社の情報も入手できる」
 土岐は聞きながら幾度も納得したように頷いた。