上野桜木沿いに言問通りに向かった。
途中に、郵便局があったので、立ち寄ることにした。半地下の郵便局には客の老人が二人いた。二十平米ほどのスペースの中央に高い丸テーブルがあり、カウンターの向こうに四名の局員が座っていた。土岐は、誰もいないカウンターに立ち、声をかけた。
「すいません。局長さんおられますか?」
「・・・はい」
と言って奥の椅子から立ち上がり、こちらに向かってきたのは四十歳前後の貧相な男だっ
た。土岐はそれを見て、高齢の局長を想定して用意していた質問を切り替えた。
「この辺で、戦時中のことに詳しい方はおられますか?」
「・・・この辺といいますと、上野桜木ということですか?」
「いえ、町名変更になる前の、谷中清水町です」
「・・・谷中清水町は、通りをはさんで根津側の一帯なんですが、・・・すぐそこに、谷中
清水町公園が名残でありますけれど・・・」
と郵便局長は指で指し示す。
「どなたか、ずっとこの辺に住んでおられる方はいませんか?」
「・・・戦前のことは、おそらく知らないと思うんですが、・・・ここの大家さんの白川さ
んなら、多少ご存じかも知れません」
「その白川さんはどこにお住まいですか?」
「・・・この時間だと、たぶん隣の写真館におられると思います」
土岐はそう言われて郵便局を出た。狭い路地を挟んで右隣に、〈白川フォトスタジオ〉と
いう看板を立てたガラス張りの小さな店があった。ショーウインド―もなく、看板がなけ
れば、喫茶店のようなたたずまいだった。観音開きの分厚いガラス扉を引いて店内に入る
と薄暗い事務室のようなレイアウトの部屋に茶のセーターに濃紺のデニムのズボンをはい
た白髪の老婆が座っていた。顔を見ると、おかっぱの髪型のせいか、五十代にも見える。
土岐は低頭した。
「こんにちは」
老女は立ち上がった。半ば茫然として、土岐の次の言葉を待っている。
「この辺のむかしのことをちょっとお聞きしたいんですが・・・」
老女はまん丸の眼できょとんとしている。土岐は相手の目を見て確認した。
「すこし、よろしいでしょうか?」
やっと反応があった。
「・・・あっ、写真じゃないんですか?」
「すいません。・・・この辺の谷中清水町に、戦争直後から何年か住んでいた人なんですが、・・・廣川弘毅という方をご存じじゃないでしょうか?」
途中に、郵便局があったので、立ち寄ることにした。半地下の郵便局には客の老人が二人いた。二十平米ほどのスペースの中央に高い丸テーブルがあり、カウンターの向こうに四名の局員が座っていた。土岐は、誰もいないカウンターに立ち、声をかけた。
「すいません。局長さんおられますか?」
「・・・はい」
と言って奥の椅子から立ち上がり、こちらに向かってきたのは四十歳前後の貧相な男だっ
た。土岐はそれを見て、高齢の局長を想定して用意していた質問を切り替えた。
「この辺で、戦時中のことに詳しい方はおられますか?」
「・・・この辺といいますと、上野桜木ということですか?」
「いえ、町名変更になる前の、谷中清水町です」
「・・・谷中清水町は、通りをはさんで根津側の一帯なんですが、・・・すぐそこに、谷中
清水町公園が名残でありますけれど・・・」
と郵便局長は指で指し示す。
「どなたか、ずっとこの辺に住んでおられる方はいませんか?」
「・・・戦前のことは、おそらく知らないと思うんですが、・・・ここの大家さんの白川さ
んなら、多少ご存じかも知れません」
「その白川さんはどこにお住まいですか?」
「・・・この時間だと、たぶん隣の写真館におられると思います」
土岐はそう言われて郵便局を出た。狭い路地を挟んで右隣に、〈白川フォトスタジオ〉と
いう看板を立てたガラス張りの小さな店があった。ショーウインド―もなく、看板がなけ
れば、喫茶店のようなたたずまいだった。観音開きの分厚いガラス扉を引いて店内に入る
と薄暗い事務室のようなレイアウトの部屋に茶のセーターに濃紺のデニムのズボンをはい
た白髪の老婆が座っていた。顔を見ると、おかっぱの髪型のせいか、五十代にも見える。
土岐は低頭した。
「こんにちは」
老女は立ち上がった。半ば茫然として、土岐の次の言葉を待っている。
「この辺のむかしのことをちょっとお聞きしたいんですが・・・」
老女はまん丸の眼できょとんとしている。土岐は相手の目を見て確認した。
「すこし、よろしいでしょうか?」
やっと反応があった。
「・・・あっ、写真じゃないんですか?」
「すいません。・・・この辺の谷中清水町に、戦争直後から何年か住んでいた人なんですが、・・・廣川弘毅という方をご存じじゃないでしょうか?」


