法蔵飛魂

 田町駅から山の手線に乗って新橋に向かった。三重県の香良洲でシステム手帳に写した〈三重海軍航空隊同窓会事務所〉は森ビルが林立する飲食店街の裏の狭い路地の文房具店の中にあった。〈新生印刷〉というレタリング文字が入り口のガラス面にプリントされている。アルミサッシの引き戸を開けて店内に入ると、リノリウムの床が一段高くなっていた。店舗面積は四十平米ほどで、店の奥に二階に上がる階段が見えた。右手前にレジカウンターがあり、四、五十代の女性事務員が座っていた。土岐はおずおずと声をかけた。
「あのう、こちらは三重海軍航空隊の同窓会事務所でしょうか?」
 中年の女性事務員は目を見開いて、土岐の次の言葉を待っている。
「あのう、こちらは、何かの同窓会の事務所になっていますか?」
「・・・すいません、ちょっと、社長に聞いてみます」
と言いながら、事務員は内線電話をかけた。二階で、椅子の軋む音がして、やがて、階段を下りてくる足音が聞こえた。店の奥から六十前後の短髪の精悍そうな男が出てきた。
「・・・ええと、ご用件は?」
 男は両手を前で組み、揉んでいる。
「こちらの住所が、三重海軍航空隊の同窓会事務所という情報を香良洲で見たんですけれど・・・」
「・・・ああ、おやじのやっていたやつですね。もう、ほとんどの方が亡くなられて、おやじが死んだあとは自然消滅のような形になっているんじゃないでしょうか?」
「たしか、同窓会名簿はこちらで印刷されたはずですが・・・」
「・・・ええ、昭和の終わりまでは、タイプ印刷屋だったんですが、パソコンのプリンターが普及しちゃって、いまは文房具の出前で食べてます。社名変更すればいいんですが、めんどくさいし、お金もかかるんで、新生印刷のままでやってます。和文タイピストにも辞めてもらって、いまは女房と二人で、ほそぼそとやっています」
と言いながら、事務員をあごでしゃくる。この妻は夫を人前では社長と呼ぶようだ。
「同窓会の方で、まだご存命の方をご存じないですか?」
「・・・さあ、・・・ご存命かどうか、分かりませんが、わたしが二十代のころ、同期のいろんな方がここに出入りしていたのを記憶してますが・・・」
〈同期〉と言う男の言葉に土岐が鋭く反応した。
「公認会計士の方はいませんでしたか?」