「・・・久邇家と清和家とは遠い姻戚関係があると、父から聞いていました。でもそれは、江戸時代の話で、・・・その当時のご当主同士が昵懇だったのは、昭和初期、たぶん昭和八、九年ごろに同じアメリカの大学に留学していて、そのときに、非常に仲良くなった、というような話を聞いています」
「戦時中、両家の間で書生を使いに出す用件について、なにか心当たりはないですか?」
「・・・これは、わたしの想像ですが、戦後、父から二人ともアメリカ留学中にクリスチャンになったらしい、というような話を聞いたことがあります。二人とも秘密にしていたみたいですが、ひょっとしたらそれと、なんらかの関係があるのかも知れないです」
「アメリカの大学名はわかりますか?」
「・・・ジェーン・エアというイギリスの小説があって、それが映画化されて戦後上映されたんですがその映画でオーソン・ウエルズが演じていた主人公の名前と同じ大学で」
「ロチェスター卿ですか?」
と土岐が助け船を出した。
「・・・そうです、ロチェスター大学の同窓だったそうです。そのロチェスター大学行きを父が政道様と英彦様に頼まれたそうですが、当時の両家のご当主が、執事をひきつれてアメリカに行ったら政道様も英彦様も独り立ちできないだろうと判断されて、お二人だけで留学されたそうです。もっとも、父は英語がからきしできなかったから、掃除洗濯の手間は省けたかもしれませんが、買い物も自動車の運転もできなかったので、お二人にとってかえって足手まといになっていたかも知れません。結局、お二人は大学の寮ではなくて、大学病院の法医学の教授になっていた台湾出身の方の邸宅に居候していたそうです。日本語が自由に使えたから、たぶん何の不自由もなかったでしょうね」
そう言って宮島は力なく笑った。土岐の背後で高いトーンの咳払いがした。振り向くと、造り笑顔の看護師が立っていた。
「・・・すいません。もうすぐ、夕食の用意が始まるので、面会は終了です」
土岐は、宮島に低頭して病院を後にした。
「戦時中、両家の間で書生を使いに出す用件について、なにか心当たりはないですか?」
「・・・これは、わたしの想像ですが、戦後、父から二人ともアメリカ留学中にクリスチャンになったらしい、というような話を聞いたことがあります。二人とも秘密にしていたみたいですが、ひょっとしたらそれと、なんらかの関係があるのかも知れないです」
「アメリカの大学名はわかりますか?」
「・・・ジェーン・エアというイギリスの小説があって、それが映画化されて戦後上映されたんですがその映画でオーソン・ウエルズが演じていた主人公の名前と同じ大学で」
「ロチェスター卿ですか?」
と土岐が助け船を出した。
「・・・そうです、ロチェスター大学の同窓だったそうです。そのロチェスター大学行きを父が政道様と英彦様に頼まれたそうですが、当時の両家のご当主が、執事をひきつれてアメリカに行ったら政道様も英彦様も独り立ちできないだろうと判断されて、お二人だけで留学されたそうです。もっとも、父は英語がからきしできなかったから、掃除洗濯の手間は省けたかもしれませんが、買い物も自動車の運転もできなかったので、お二人にとってかえって足手まといになっていたかも知れません。結局、お二人は大学の寮ではなくて、大学病院の法医学の教授になっていた台湾出身の方の邸宅に居候していたそうです。日本語が自由に使えたから、たぶん何の不自由もなかったでしょうね」
そう言って宮島は力なく笑った。土岐の背後で高いトーンの咳払いがした。振り向くと、造り笑顔の看護師が立っていた。
「・・・すいません。もうすぐ、夕食の用意が始まるので、面会は終了です」
土岐は、宮島に低頭して病院を後にした。


