法蔵飛魂

 手元が暗いようで、宮島は頭の上の蛍光灯のスイッチを入れた。テレビを見ていた銀縁の眼鏡をはずし、目をパスポート写真にこすりつけるようにして見ている。しかめっ面だ。隣のベッドの黄色いカーテン越しに、男のかすかなうめき声が聞こえてくる。
「・・・まあ、その折り畳みの椅子におかけください」
 土岐は窓際に立てかけてあった椅子を開いて腰かけた。上半身を腰まで起こした宮島と目線が合った。宮島は土岐の顔を一瞥した。
「・・・たぶん、そう言われれば松村さんに違いないと思います。でも、このパスポートの名前は廣川となっていますね」
「・・・たぶん、松村は偽名だと思います。どうして偽名を使っていたのか分からないのですが、その松村が久邇家で何をしていたかわかりますか?」
「・・・さあ、わたしは、戦後になってから見かけただけで、お屋敷の応接室の方でご当主の政道様と話し込んでいたようですが、・・・庭の方から見かけただけなんで・・・そのころ私たち家族はお屋敷の敷地の端の方のふた間だけの平屋にすんでいました」
「戦中ではなく、戦後ですか?」
「・・・わたしは昭和十五年生まれなもんで、戦時中にもお見かけしたことはあったかも知れませんが、・・・松村さんの記憶があるのは戦後だけなんです」
「どんな用事だったんでしょうか?」
「・・・さあ、小学校に入るか入らないかというころなので、・・・ただ、怖そうなお兄さんたち、という印象がありましたね」
「お兄さんたちと言いますと・・・?」
「・・・松村さん一人だけを見かけたことはなかったような気がします。いつも、二、三人でいるところを見たような記憶があります。みなさん同年輩だったような記憶があります。これは噂ですが、そのころご当主の久邇政道様はGHQと関係があったらしいです。物資も食料も不足していた時代ですが、そのせいか、世間と比べるとずいぶん豊かな食生活をしていました。わたしも、メイドインUSAの缶詰やらチョコレートやら、そのおこぼれを頂戴した口ですが・・・」
 そう言いながら宮島は窓の外に眼を泳がせる。
「久邇マサミチさんと清和英彦さんはどういう関係なんですか?」