法蔵飛魂

「そうですか。どうも、ありがとうございました。これからお見舞いに伺おうと思いますので、お伝え願えればさいわいです。わたしは土岐と申します」
 土岐は携帯電話を折り畳むと、手帳に、〈宮島よしあき・再生会中央病院〉とメモした。折り畳んだ電話を再び開いて、病院を検索し、その電話番号に面会時間を確認し、京浜東北線で田町駅に向かった。田町駅で下車し、国道一号線を右折して、東京タワー方向に歩きだし、赤羽橋を目指した。学生相手の喫茶店や飲食店や古書店が道路の両側に立ち並ぶ。再生会中央病院は田町駅から三田山上の慶應義塾大学を左手に見て1キロ足らずのところにあった。受付で、〈宮島よしあき〉という名前で照会すると、病室を教えてくれた。消毒臭が鼻をついた。土岐は地下の売店で、菓子折を買った。領収書をポケットにしまった。
 宮島吉昭の病室は四人部屋だった。宮島は右奥の窓際でテレビを見ていた。土岐は、ベッドの足もとに立って、自己紹介した。
「失礼します。久邇頼道さんのご紹介で、お見舞いに上がりました。土岐と申します」
 宮島は寝ぼけたような腫れぼったい目で、上半身を肘の高さだけ起こし、土岐を見上げた。まぶしそうな目の焦点が定まっていない。
「・・・どちらのトキさんでしょか?」
「すいません、初対面です。さきほど、御子息に電話した者ですが・・・戦時中の久邇家と清和家の関係についてうかがいたくて、参りました」
と言いながら、土岐は菓子折を宮島の枕元に置いた。先刻電話した宮島敦夫の孫から、土岐の目の前にいるその父親に連絡があったのかどうか、どうもはっきりしない。
「・・・どうも」
と言いながらも、宮島は警戒心を解いていない。息子から連絡がなかったようだ。
「実は、京都で清和俊彦さんにお会いして、戦時中、松村という書生が、清和家の用事で、幾度か、東京の久邇家に伺っているという話を聞きまして、そのことについて、ちょっと伺いたいのですが・・・」
「・・・戦時中ですか・・・わたしは、まだ子供だったので、詳しいことは・・・」
 土岐はポケットから、廣川弘毅のパスポートを出し、写真を見せた。
「これは、四十代のときですが、松村という男に見覚えはありませんか?」