法蔵飛魂

と言いながら自分の名刺を出してアームチェアに深々と腰かけた。その男の肩書と名前は、
〈久邇商会株式会社 秘書室次長 井上孝雄〉
となっている。土岐はさっそく、清和カードを切ってみた。
「そうですか。実は、会長さんの京都のお友達の清和俊彦さんの紹介で来ました」
「・・・あっ、清和様のご紹介ですか」
 男の態度が豹変した。弛緩させ切って座っていた下半身が、一瞬のうちに硬直した。男は深く腰掛けていた腰を少し浮かせて、前方に擦り出した。
「・・・で、ご用件は・・・」
「清和俊彦さんの御祖父さんと久邇会長の御祖父さんが刎頸の友であったと聞きまして、どういうご交際があったのか、お聞きしたいと思いまして・・・」
 秘書室次長は両手を膝の前でかしこまって組みながら、少し首をひねる。
「・・・失礼ですが、どういったたぐいのお話でしょうか?」
「話せば長くなるんですが、廣川弘毅という元総会屋、別名松村博之という人物が、戦時中、京都の清和家の書生をしておりまして、当時の当主からの御使いで、こちらの先々代のご当主に頻繁に会われていたようなんですが、どういう用件だったのかお話し願えればと思いまして・・・」
「・・・戦時中?・・・会長は戦後生まれですが・・・」
「ええ、それは存じ上げています。仄聞のかたちで、聞かれたことがないかどうかということだけ、お聞かせ願えれば、ということです」
 男の首が捻られたまま、元に戻らない。そのままの姿勢でクロスのボールペンでメモ用紙に土岐の用件を書き込んでいる。
「・・・分かりました。会議が終わり次第、会長に尋ねて、その結果をこちらの名刺のメールアドレスのほうに送信させていただきます。・・・それでよろしいでしょうか?」
「わかりました。それで結構です。・・・それでは、お願いいたします」
 土岐はそれ以上粘る気力が失せていた。会長が会議中で席が外せないと言うのは方便だと睨んでいた。