法蔵飛魂

「・・・敦賀じゃなくって、東京の方ですね」
「えっ、記録があるんですか?」
 土岐は大学ノートを見ようと思わず手を出した。男はそうさせまいと、顎の下に大学ノートを引き寄せた。
「・・・お見せしていいものかどうか・・・」
 土岐は改めて名刺を取り出し、自己紹介した。
「東京から、三田法蔵さんのことを調査しに来た者です。京都、糸魚川、敦賀、香良洲、熱田をめぐってやっとここにたどり着きました」
 土岐は同情を誘うように熱い思いを込めて、哀願した。男は観念したようだ。
「・・・受け取った日付は四十年ほど前ですね。東京の巣鴨の方ですね。中村貞江という女性です」
「すいません。住所を教えてください」
 男は不承不承で、大学ノートを床に置いた。土岐は、玄関に立ったまま、腰を折って覗き込み、住所と名前と日付を手帳に書き写した。
「でも、この女性と三田法蔵はどういう関係なんでしょうか?」
「・・・さあ、今の住職が知っているかどうか。今の住職が赤ん坊の頃の日付ですからね」
「その御住職はおられますか?」
「・・・今日は、あいにく、通夜がありまして、出かけております」
「骨壷をこの女性に渡したというのはどういうことなんでしょうか?」
「・・・詳細は知りません。御親戚か、なんかだろうとは思うんですが・・・これは想像ですが、寺としては、法事がないような供養料の入らないお骨を預かっていてもしょうがないので、無縁仏のようなお骨については、引き取りたいと言う申し出があれば、お話を伺った上で、それまでの供養料をいただいて、お渡ししていたようです。最近は、そういうお話は全くないようなんですが、・・・戦争中の空襲でご一家で亡くなられたような場合は、何年か経って親戚の方が来られた時には、記録だけ頂いて、お渡ししていたようです。身内の方に供養して頂いて、お墓に納めていただくのが一番ですから・・・」
「どうも。後日、御住職に電話でお尋ねすることがあるかも知れませんが、今日のところは、夜分、突然伺いまして失礼しました」
 そこまで言って善導寺を辞した。
 それから名古屋駅まで戻り、新幹線のぞみで帰京した。