「・・・奴とは一度酒を飲みながら本音を語り合ったことがある。禁句ではあったが彼は、『この戦争はまちがいなく負ける』と言っていた。それを聞いた時、一瞬あたりを見回した。特高警察を心配したんだが、軍隊には、密告者はいても特高のいるわけがない。『飛ぶ飛行機もないのに勝てるわけがない』とも言っていた。嘆きと言うよりも、冷静な判断だったと思う。『作戦参謀が、特攻を作戦として取り上げた時点で負けたようなものだ』とも言っていた。この物言いには多少、作戦参謀に対する怒気が込められていた。『優秀なパイロットから順に死んでいったら、空中戦で勝てるわけがない』『山本大将も言っておられたが、近代戦で制空権をとられたら勝ち目はない』とも言っていた。『それじゃあ、特攻は犬死か?』と彼に聞いたら、『いや、アメリカに、二度と日本とは戦争をしたくないと思わせる効果がある』『戦争が終わればアメリカは日本を属国にして、懐柔するはずだ』『敵の敵だから、いまは連合国となっているソ連は、この戦争が終われば、アメリカと敵対し、アメリカに懐柔された日本は心ならずもソ連と敵対するようになる』とも言っていた。八月十四日には、日本が無条件降伏をするらしいという噂が流れていた。誰もが戦争が終わって、晴々したような気持ちになろうとしていたが、彼は逆だったのかも知れない。彼の気持ちを推し量ることはできないが、平和になることを悲観して、自殺したのかも知れない。あの時、彼が生きていた目的は特攻にあった。終戦でその目的が失われる。だから、生きている意味がなくなったのか・・・ようわからん」
柄杓が並ぶ手水舎の脇の鳥居を潜って右手に折れると、西門の鳥居が見えてきた。西門の鳥居をくぐるころには、つるべ落としの陽はとっぷりと暮れていた。神宮の結界の外に出て、土岐は別れ際に尋ねた。
「三田法蔵の遺体はどうしたんでしょうか?」
「・・・すぐに灰にしたと思う」
「というと、この辺で?」
「・・・熱い夏だった。鉄道も混乱していた。敦賀の出身だとかは聞いていたが、確か、一人の教官が、親しかった同期生二人と一緒に大八車で焼場に運んだはずだ。その二人はもう物故しているはずだ」
「じゃあ、香良洲の近くで、ということですか?」
堀田は目を細めて香良洲の方角を見上げた。
柄杓が並ぶ手水舎の脇の鳥居を潜って右手に折れると、西門の鳥居が見えてきた。西門の鳥居をくぐるころには、つるべ落としの陽はとっぷりと暮れていた。神宮の結界の外に出て、土岐は別れ際に尋ねた。
「三田法蔵の遺体はどうしたんでしょうか?」
「・・・すぐに灰にしたと思う」
「というと、この辺で?」
「・・・熱い夏だった。鉄道も混乱していた。敦賀の出身だとかは聞いていたが、確か、一人の教官が、親しかった同期生二人と一緒に大八車で焼場に運んだはずだ。その二人はもう物故しているはずだ」
「じゃあ、香良洲の近くで、ということですか?」
堀田は目を細めて香良洲の方角を見上げた。


