「・・・隊員全員が彼に嫉妬していたから、嫉妬が動機だとしたら隊員全員が容疑者だ。惚れ惚れするような美男子で、・・・ラブレターがよく来ていた。それがよく盗まれたらしい。彼は全く気にしていなかったようだが・・・それに、手先信号、航海術、空中航法、滑空機操縦術、飛行機基本操縦術、航空術、運用術、見張術、・・・六十年たった今でも教科を覚えている。記憶は鮮明だ。戦後のぬるま湯のような人生は薄いベールの掛った様な記憶しかない。・・・彼は何をやらせても満点をとった。それに、特攻志願のアンケートを教官がとった時、彼は何の躊躇もなく、真っ先に志願すると答えた。何の迷いもなく特攻志願する者など、本当は一人もいなかった。特攻志願すれば、間違いなく戦死する。故郷にも帰れないし、両親や兄弟にも、恋人にも永遠に会えなくなる。心の中では、だれもが特攻に志願したくなかったが、それでも一人も特攻を志願しないと答えた者はいなかった」
「三田法蔵は自殺したという可能性もあるんですか?」
「・・・おれは、ひょっとしたら、と思っている。嫉妬だけでは殺す動機としては弱い。それに予備学生がグライダーに細工するのは物理的に困難だ。歩哨の不寝番もいるし、士官はともかく、学生が用もないのにグライダーの近くをうろうろしていたら咎められる」
「教官が容疑者の可能性はないですか?たとえば、長瀬啓志とか・・・」
「・・・動機が見当たらない。彼はどの教官からも好かれていた。どんな問題を出しても満点をとる生徒というのは教官冥利に尽きるんじゃないだろうか?・・・誰しもが、『三田法蔵は、天才的だ』と評していたが、おれはそうは見ていなかった。夕食後、自習時間があったが、彼は常に試験準備をしていた。就寝時にハンモックを吊るして、釣り床を準備する。そのあと当直将校が巡検する。巡検が終わると、ハンモックから起き出してタバコを吸うやつとか明日の日課の準備をするやつとかいろいろだが、彼は教科の予習か復習をしていた。みんなが寝静まると彼は深夜、自転車から懐中電灯を取り外して、ハンモックの中で毛布をかぶって勉強していたんだ。寝る前に水を飲みすぎて、夜中、たまたま便所に起きたときに、見かけた。朝が白けてくると、彼は廊下や便所の掃除を始めていた。だから、ほとんどの隊員は彼が真夜中ハンモックの中で勉強していたことを知らないはずだ」
「三田法蔵は自殺したという可能性もあるんですか?」
「・・・おれは、ひょっとしたら、と思っている。嫉妬だけでは殺す動機としては弱い。それに予備学生がグライダーに細工するのは物理的に困難だ。歩哨の不寝番もいるし、士官はともかく、学生が用もないのにグライダーの近くをうろうろしていたら咎められる」
「教官が容疑者の可能性はないですか?たとえば、長瀬啓志とか・・・」
「・・・動機が見当たらない。彼はどの教官からも好かれていた。どんな問題を出しても満点をとる生徒というのは教官冥利に尽きるんじゃないだろうか?・・・誰しもが、『三田法蔵は、天才的だ』と評していたが、おれはそうは見ていなかった。夕食後、自習時間があったが、彼は常に試験準備をしていた。就寝時にハンモックを吊るして、釣り床を準備する。そのあと当直将校が巡検する。巡検が終わると、ハンモックから起き出してタバコを吸うやつとか明日の日課の準備をするやつとかいろいろだが、彼は教科の予習か復習をしていた。みんなが寝静まると彼は深夜、自転車から懐中電灯を取り外して、ハンモックの中で毛布をかぶって勉強していたんだ。寝る前に水を飲みすぎて、夜中、たまたま便所に起きたときに、見かけた。朝が白けてくると、彼は廊下や便所の掃除を始めていた。だから、ほとんどの隊員は彼が真夜中ハンモックの中で勉強していたことを知らないはずだ」


