本宮前の五、六段の広い石段の中央で焦げ茶のベレー帽を被り後ろ姿でじっと拝礼し続けている老人がいた。
土岐は背中から声をかけた。
「失礼ですが、堀田さんですか?」
振り返ると、柔らかそうな銀髪が二、三本、額に乱れ、黒縁の眼鏡の奥から、焦点を合わせるように土岐の顔を捉えようとしている小さな眼があった。
「・・・トキさんですか?」
「はい」
「・・・堀田です。わざわざ、東京から、ご足労です。いま、香良洲から来られたとか・・・」
「ええ、香良洲の英霊を懇ろに弔ってきました」
〈英霊〉とか〈懇ろ〉という言葉を人生のいつの時点で使ったことがあるか、土岐の記憶にはない。しかし、そうした言葉が無意識のうちに土岐の口を突いて出た。
「・・・そうですか・・・わたしは近くに住んでいるんですけど、最近はほとんど香良洲には行かないですね。もう、同期の殆どが物故したこともあるし・・・」
堀田は本宮に一礼すると、踵を返して、木漏れ日の中を南に向かって歩き始めた。
「・・・お帰りはJRですか?それとも、地下鉄ですか?」
堀田の言葉には境内で聞くせいか、言霊のような静謐さが感じられる。
「新幹線で東京に帰りますので、どちらでも・・・」
「・・・いま、東門から来たんですか?」
「そうです」
「・・・それじゃあ、西門から出ますか。地下鉄があります」
堀田はややO脚気味だが矍鑠とした足取りで、玉砂利を踏みしめて行く。土岐は左斜め後方から、堀田の横顔をうかがうように質問した。
「三田法蔵という人を御存知ですよね」
「・・・彼のことは第五班のみならず、隊員すべてが知っている」
「八月十日に殉職されたことを今日知りました。その状況はどうだったんでしょうか」
「・・・ワイヤーのフックが外れずにグライダーが滑走路に叩きつけられて、即死だった」
「事故だったんでしょうか?」
「・・・事故とは考えられない。自殺か他殺だ」
「自殺?」
「・・・まあ、他殺でなければ、自殺ということだ。・・・フックをはずすのは本人だから、フックに異常がなかったとすれば、自殺か、・・・心神喪失状態になっていたとすれば、事故だろうが・・・」
「他殺だとしたら、誰が犯人でしょうか?」
土岐は背中から声をかけた。
「失礼ですが、堀田さんですか?」
振り返ると、柔らかそうな銀髪が二、三本、額に乱れ、黒縁の眼鏡の奥から、焦点を合わせるように土岐の顔を捉えようとしている小さな眼があった。
「・・・トキさんですか?」
「はい」
「・・・堀田です。わざわざ、東京から、ご足労です。いま、香良洲から来られたとか・・・」
「ええ、香良洲の英霊を懇ろに弔ってきました」
〈英霊〉とか〈懇ろ〉という言葉を人生のいつの時点で使ったことがあるか、土岐の記憶にはない。しかし、そうした言葉が無意識のうちに土岐の口を突いて出た。
「・・・そうですか・・・わたしは近くに住んでいるんですけど、最近はほとんど香良洲には行かないですね。もう、同期の殆どが物故したこともあるし・・・」
堀田は本宮に一礼すると、踵を返して、木漏れ日の中を南に向かって歩き始めた。
「・・・お帰りはJRですか?それとも、地下鉄ですか?」
堀田の言葉には境内で聞くせいか、言霊のような静謐さが感じられる。
「新幹線で東京に帰りますので、どちらでも・・・」
「・・・いま、東門から来たんですか?」
「そうです」
「・・・それじゃあ、西門から出ますか。地下鉄があります」
堀田はややO脚気味だが矍鑠とした足取りで、玉砂利を踏みしめて行く。土岐は左斜め後方から、堀田の横顔をうかがうように質問した。
「三田法蔵という人を御存知ですよね」
「・・・彼のことは第五班のみならず、隊員すべてが知っている」
「八月十日に殉職されたことを今日知りました。その状況はどうだったんでしょうか」
「・・・ワイヤーのフックが外れずにグライダーが滑走路に叩きつけられて、即死だった」
「事故だったんでしょうか?」
「・・・事故とは考えられない。自殺か他殺だ」
「自殺?」
「・・・まあ、他殺でなければ、自殺ということだ。・・・フックをはずすのは本人だから、フックに異常がなかったとすれば、自殺か、・・・心神喪失状態になっていたとすれば、事故だろうが・・・」
「他殺だとしたら、誰が犯人でしょうか?」


