土岐は手帳を出し、挟んであった法蔵寺で借りてコピーをとった写真を見せた。
「この黒い法衣を着て、数珠を持った人じゃなかったですか?」
「・・・ずいぶんお若く見えますが・・・」
「ええ、三、四十年前の写真です」
「・・・そう言われてみれば、そうだったような気がしないこともないような・・・」
土岐は記帳ノートを老女に返した。老女はそれを元の書類棚に戻し、入り口わきの椅子に座りなおした。老女の傍らに山積みになっている線香の束には、〈飛魂香〉という名前がついていた。土岐はその線香を買い、火をつけて英霊に手向けた。線香のかおりが鼻腔の奥に拡がって行った。特攻者名簿に手を合わせ、その記念館を出た。
松風がうるさい程に鳴いていた。土岐の体全体が焦げつくような熱に包まれた。突然、眼の奥に熱くこみ上げてくるものを感じた。松林の向こうの青い海と白い雲の風景が次第に歪んできた。目に溢れた滴がぽつんと落ち、砂地にゆっくりと染み込んで行った。
土岐は、海で行き止まりになっている広い道路の真ん中で、三田法蔵と同期第五班の名古屋在住で無職の堀田という老人に電話をかけた。呼び出し音、六回で出てきた。
「あ、堀田さんですか?」
「・・・はあ」
「突然のお電話で失礼します。わたくし、東京から来ました土岐と申します。戦時中、三重海軍航空隊で殉職された三田法蔵さんについて、ちょっと、調べている者なんですが、お会いして、お話できないでしょうか?」
「・・・まあ、いまは、年金暮らしだから、時間はいくらでもありますが・・・」
「実は今、香良洲におりまして、これから、名古屋に向かいますので、四時前ごろにはそちらに着くかと、思うんですが・・・」
「・・・それじゃあ、四時すぎに熱田神宮の本宮前でいかがですか?」
「わかりました。うががいます」
JR紀勢本線で高茶屋駅に戻り、津駅乗り換えで近鉄名阪乙特急で白子、近鉄四日市、桑名を経て近鉄名古屋駅に着き、名鉄名古屋駅から金山を経て神宮前駅に着いたのはちょうど四時だった。駅から徒歩三分程度で東門の鳥居にたどり着いた。そこから本宮までは玉砂利に足をとられて十分近くを要した。夕暮れ前で、晩秋間近の日差しが弱々しく社の森に漂っていた。ほの暗い黄昏が木々からこぼれる秋の空を稠密に埋め始めていた。
「この黒い法衣を着て、数珠を持った人じゃなかったですか?」
「・・・ずいぶんお若く見えますが・・・」
「ええ、三、四十年前の写真です」
「・・・そう言われてみれば、そうだったような気がしないこともないような・・・」
土岐は記帳ノートを老女に返した。老女はそれを元の書類棚に戻し、入り口わきの椅子に座りなおした。老女の傍らに山積みになっている線香の束には、〈飛魂香〉という名前がついていた。土岐はその線香を買い、火をつけて英霊に手向けた。線香のかおりが鼻腔の奥に拡がって行った。特攻者名簿に手を合わせ、その記念館を出た。
松風がうるさい程に鳴いていた。土岐の体全体が焦げつくような熱に包まれた。突然、眼の奥に熱くこみ上げてくるものを感じた。松林の向こうの青い海と白い雲の風景が次第に歪んできた。目に溢れた滴がぽつんと落ち、砂地にゆっくりと染み込んで行った。
土岐は、海で行き止まりになっている広い道路の真ん中で、三田法蔵と同期第五班の名古屋在住で無職の堀田という老人に電話をかけた。呼び出し音、六回で出てきた。
「あ、堀田さんですか?」
「・・・はあ」
「突然のお電話で失礼します。わたくし、東京から来ました土岐と申します。戦時中、三重海軍航空隊で殉職された三田法蔵さんについて、ちょっと、調べている者なんですが、お会いして、お話できないでしょうか?」
「・・・まあ、いまは、年金暮らしだから、時間はいくらでもありますが・・・」
「実は今、香良洲におりまして、これから、名古屋に向かいますので、四時前ごろにはそちらに着くかと、思うんですが・・・」
「・・・それじゃあ、四時すぎに熱田神宮の本宮前でいかがですか?」
「わかりました。うががいます」
JR紀勢本線で高茶屋駅に戻り、津駅乗り換えで近鉄名阪乙特急で白子、近鉄四日市、桑名を経て近鉄名古屋駅に着き、名鉄名古屋駅から金山を経て神宮前駅に着いたのはちょうど四時だった。駅から徒歩三分程度で東門の鳥居にたどり着いた。そこから本宮までは玉砂利に足をとられて十分近くを要した。夕暮れ前で、晩秋間近の日差しが弱々しく社の森に漂っていた。ほの暗い黄昏が木々からこぼれる秋の空を稠密に埋め始めていた。


