祭りのあと

「そろそろいいでしょう。何か変な動きがあったら電話しますから」と言う林の忠告を受けて土岐は車を降りた。外気は昼間の暖冬が嘘のようにしんしんと冷えて来ていた。玄関の左側はキッチン、右側は半地下のゲームルームになっている。土岐は白い木造の建物を玄関前から右に回って、芝生を敷き詰めたバックヤードに出た。庭の隅に使い古した芝刈り機が放置してあった。裏庭にはレースのカーテンの隙間からリビングの照明が煌々と漏れていた。土岐は建物の窓の下の影を伝うようにしてリビングの横にたどりついた。そこからカーテンの隙間を通して部屋の中を窺った。正装に近いいでたちで仮面をつけた十数名の男女が手に手にワイングラスを持ち、プロジェクターで映し出されたパワーポイントの画面を見入っていた。画面の内容はよく見えなかった。画面が変わるたびに談笑しているように見えた。窓際の男はフラワーホールに、女は胸のあたりのブローチあたりに、あのメソポタミアのバッジをしているようだった。普通の会員バッジのようで陶器製のようには見えなかった。さらによく見ると金文字ではなく、おでんの串刺しは斜めになっているように見えた。奈津子の姿も見えたが彼女のバッジがどうなっているかは分らなかった。そもそも全員があのバッジをつけているかどうかも確かではなかった。奈津子は額から後頭部迄禿げ上がった男と何かを議論しているようだった。手振り身振りを交えて話している。何を話しているのかは皆目分からなかった。奈津子の阿修羅のような真剣な眼差しは初めてみるものだった。それ以上の収穫はなそうだった。急に空腹を覚えた。土岐はその場を切り上げることにした。キャデラックに戻ると、ウインドウを半開にして林はカーナビでMLBのニュースを見ていた。エンジェルスとドジャーズのオープン戦のデーゲームの結果が放送されていた。土岐が車に乗り込むと、「その家、何番地?」
と林がディスプレイから目を離さずに言った。
「どこに書いてあるんですか?」
「郵便受けか、玄関のドアの上か、玄関ポーチの柱の上に」
と言われて、土岐は引き返して玄関の扉の上を見たが書いてない。郵便受けに真鍮の数字が埋め込まれていたが暗くてよく見えない。見えるところ迄近づいて見ると3411になっていた。再びキャデラックに戻って林に番号を告げると、林が言う。
「変でしょ」
「何が?」