祭りのあと

と土岐が中をのぞき込んで卑しそうに言う。林は土岐の背中を押した。二人とも会場の中に踏み込んだ。天井の高い会場の中には百数十人程の、様々な人種の様々な髪の色と様々な膚の色の人々がお互いの胸のネームカードを確認し歓談しながら立食していた。土岐は伏し目がちに奈津子を探した。先に探す必要があった。必死だった。少し目線を低くして会場の壁際を忍者のように伝うように歩いた。入口から十メートル程入ったところで、背の高い銀髪の白人と背の低いアジア人と三人で談笑している奈津子を発見した。奈津子は、TOKYO、
白人は、
PARIS、
アジア人は、
HONG KONG
のカードを胸につけていた。林も同時に見つけた。奈津子がこちらに視線を向けかけた。二人はくるりと背を向けて会場の外に出た。
「ばれたらまずいのでしょう?」
と林は少し興奮した口ぶりで言う。
「彼女は自分が疑われていることに気付くでしょうね」
「それではあの何も書いてないメッセージはフロントから回収した方がいいですね。さっきのブルーネットが我々を覚えてくれているといいのですが。で、これからどうするので?」
「7時に終わるので、ホテルのラウンジで待機したいんですが」
「夕飯どうします?プライムリブの店を知っていますが」
と林は団子のような鼻の下で舌なめずりをする。
「7時迄ラウンジでいいですか?」
 林は意味もなく笑う。二人はホテル入口のラウンジの沈み込みそうな緑のソファに腰掛けた。奈津子を待つことにした。土岐がコンベンションホールの方に背を向け林がホールから出てくる人間をウオッチすることにした。土岐はゴルフ場のコースで汚れたスニーカーの土が気になって、クオーターコインでせっせと落とした。
 奈津子は林を知らないから、かりに目が合ったとしても全く気に掛けないに違いない。林は滅多に見かけない美形ということで奈津子の顔をはっきり覚えていた。
「白人の美人はあまり見分けがつかないのだけれど東洋の美人は百人百様で識別できるから不思議です」
とスニーカーの上に屈み込んでいる土岐の後頭部に話しかけた。
 7時迄三十分程あった。林は話し好きだった。土岐にしきりに話しかけてきた。よどみがなかった。不意に林の目が瞳孔を収縮させたようにして一点に止まった。土岐に目配せをする。奈津子が出てきた。林の目はエレベータホールに移動して止まった。