祭りのあと

「もちろん。日本の医師免許も持っていますよ。休暇中に日本に行って受験したのです。日本の医師は定年がないでしょう。弟が横浜の中華街で開業しているもので、移住しようかとも考えたのですが、居住費を聞いたら、とても高いのでやめました。こちらはビバリーヒルズの住宅街は別ですが、土地はただみたいなものですから」
「解剖医と検死官は別なのですか?」
「勿論。でも東洋人が多いです。かつて日本の穢多非人が皮なめしを生業とするのが多かったように所謂WASPはあまりいませんな。この国は露骨な差別社会ですから。憲法に差別撤廃を謳わなければならない程差別が激しい。私の場合は一番なりやすい職業だった。そう言えばマリリン・モンローを検死したのは確か日本人でしたな」と話しかけたときターミナルの出口から小ぶりの茶のサムソナイトを転がしながら奈津子が現れた。土岐は指差した。昼の日差しにまぶしそうにしながら颯爽と通りを横切り、バス乗場に向かっている。
「ほう、あの東洋人ですか。とびきりの別嬪さんですな。南條警部が言っていたように面白くなってきましたな。オリエンタルの美人は私にとってはとてもリアリティがあって堪らないですな」
と林が感嘆した。ぽかんと開けた口から涎が垂れそうだった。
 土岐は、奈津子が乗り込んだヴァンの登録ナンバーを記憶した。林のキャデラックはそのヴァンの後ろにぴたりとついて行った。
「彼女は何者ですか?」
と林がカーナビで行き先をドリムランドにセットしながら聞いた。
「千葉ドリムランドCDLの渉外係です。今日と明日、アナハイムとフロリダ、東京、ホンコン、パリの全世界の担当者を集めたホスピタリティコンベンションがあるようです」
「あんな佳人がどういう犯罪と関係があるのですか?」
「殺人事件です。それも少女の」
「へえ。妹とか、叔母さんの娘とかを殺したのですか?」
「いいえ」
「テロということですな。そんなニュースは聞いていないですな」
と言う林のハンドルを持つ手が小刻みに震えている。年齢によるものなのか興奮によるものなのか。
「確定したわけではないんです。少女の殺人は僕の勝手な推理です」
「証拠を捜査中ということですな。何か、ぞくぞくしてきましたな」