祭りのあと

「ああ、それで南條警部の紹介なのですな。南條警部とは十数年前、日本人がロスで犯した保険金殺人事件で知り合いました。英語の堪能な若い刑事さんと二人で来たけれど、南條警部は最初から最後迄、ついに一言も英語を話さなかった。豪傑でしたね」
「林さんも警察の方ですか?」
「いいえ、大学病院の解剖医でした。昨年リタイアしましたが。それで次の便は何時着で?」
「ボードの掲示によると予定通りで、一時間たらずあとですね」
「尾行するということですが行き先の見当ついてるのですか?」
「多分、ドリムランドだと思うんですが」
「どういくのですか?バスならエクスプレス直行便がありますが」
 土岐はターミナルの出口を出て車道を渡ったところにある緑色の、
〈Buses & Long Distance Vans〉
と表示されたバス乗り場を指差した。その一角に、
〈Hospitality Convention〉
と書かれたプラカードが見えた。そのカードのあるヴァンには既に何人かの参加者らしき乗客が乗り込んでいた。土岐はそのプラカードを指差した。
「車をバス乗場迄持って来ましょう。で、荷物はそれだけですか?」
と林は土岐のショルダーバックを不審そうに見た。
「ええ、たった二泊ですから」
「一緒に駐車場迄来て下さい。はぐれると困るので」
と林に言われて土岐は国際空港の広大な駐車場に向かった。林の車はかなり走りこんでいそうなスカイブルーのキャデラックだった。後部座席に大人が3人程ゆったり座れそうだった。土岐はそこにショルダーバッグを置いて助手席に座った。ショックアブゾーバーが急発進を吸収してゆるやかにバウンドするように走り出した。荒っぽい運転だか、急ハンドルの衝撃を板バネが全て吸収する。波乗りのような乗り心地だ。バス乗り場の背後でターミナルの出口がうかがえる場所に到着したとき、既に十一時近かった。
「日本と縁の深い家庭では一時期、日本人と同じような名前をつけるのが流行ったのです。私の名前はそのはしりです」
と言う林の話の腰を折って土岐が丁寧な発音でゆっくりと質問した。
「解剖医ということですがアメリカの医師免許をお持ちなんで?」