と言う間に二人が消えた厚い硝子張りの薄墨色の瀟洒なビルの前に来た。スイス系銀行の東京支店だった。店舗の正面シャッターは既に降りていた。脇のビルの出入口から奈津子と運転手の二人は入った。南條はBMWの斜め後ろに立つと携帯電話で墨田署の交通課に登録ナンバーを告げた。所有者を陸運局のデータベースから突き止めるように車籍照会を依頼した。それから中の様子を窺うようにそのビルのエレベータホールに足を踏み入れた。エレベータホールの奥に銀行の通用口があり分厚い硝子ドアから店舗の内部の様子がうかがえた。南條は通行人のような素振りでその前をゆっくりと通り過ぎエレベータホールの縁を巡るようにして入口に戻ってきた。
「二人とも中にいる。お前も来い」
と言われて土岐も南條に続いた。三基のエレベータの前の二メートル程の観葉植物と一メートル弱の高さのスタンド灰皿の間で南條は立ち止まった。そこからかろうじて銀行の内部がうかがえた。南條はポケットからジッポライターを取り出すと、土岐に渡した。
「持て。ポケットにしまって」
と南條が頭ごなしに指示する。土岐がジッポライターをダッフルコートのポケットにしまう。南條はピースを一本取り出した。唇にくわえた。土岐が気を利かせてライターを取り出そうとすると、
「まだだ」
と制した。三基のエレベータの真ん中からサラリーマン風の男が二人、談笑しながら連れ立って降りてきた。
「今だ。点けろ」
と南條がピースを口にくわえ、ゾウガメのように短い首を突き出した。土岐は慌ててジッポライターを取り出し不器用な所作で火をつけた。南條の野球帽の庇が遮蔽になって煙草の先が良く見えない。サラリーマン風の男二人はちらりと一瞥しただけで暖房の効いていない玄関ホールを出て行った。
「もういいぞ。消せ」
といいながら南條はやっと説明した。
「男一人が意味もなくつっ立っていると目立つ。二人なら待合わせと思い込む。記憶や印象に残るというのは見る者に不自然さを感じさせる場合だ。男二人でもただ立っていると印象に残る。印象に残らせないためにはごく自然な動作を目撃者に見せることだ。周囲の風景に溶け込むというやつ。印象に残らなければ記憶にも残らない」
と言いながら南條は煙草を手にしているが、火がついていない。
「さっきの二人のサラリーマンは永山奈津子と無関係でしょ?」
「二人とも中にいる。お前も来い」
と言われて土岐も南條に続いた。三基のエレベータの前の二メートル程の観葉植物と一メートル弱の高さのスタンド灰皿の間で南條は立ち止まった。そこからかろうじて銀行の内部がうかがえた。南條はポケットからジッポライターを取り出すと、土岐に渡した。
「持て。ポケットにしまって」
と南條が頭ごなしに指示する。土岐がジッポライターをダッフルコートのポケットにしまう。南條はピースを一本取り出した。唇にくわえた。土岐が気を利かせてライターを取り出そうとすると、
「まだだ」
と制した。三基のエレベータの真ん中からサラリーマン風の男が二人、談笑しながら連れ立って降りてきた。
「今だ。点けろ」
と南條がピースを口にくわえ、ゾウガメのように短い首を突き出した。土岐は慌ててジッポライターを取り出し不器用な所作で火をつけた。南條の野球帽の庇が遮蔽になって煙草の先が良く見えない。サラリーマン風の男二人はちらりと一瞥しただけで暖房の効いていない玄関ホールを出て行った。
「もういいぞ。消せ」
といいながら南條はやっと説明した。
「男一人が意味もなくつっ立っていると目立つ。二人なら待合わせと思い込む。記憶や印象に残るというのは見る者に不自然さを感じさせる場合だ。男二人でもただ立っていると印象に残る。印象に残らせないためにはごく自然な動作を目撃者に見せることだ。周囲の風景に溶け込むというやつ。印象に残らなければ記憶にも残らない」
と言いながら南條は煙草を手にしているが、火がついていない。
「さっきの二人のサラリーマンは永山奈津子と無関係でしょ?」


