祭りのあと

と前方を見据えている南條の声に怒気がこもっていた。
「道なりです」
と土岐が答えると、軽自動車は再び息を切らせるように目一杯の走行性能で走り出した。暫く行くと信号に捉まった。南條は大型ダンプトラックの脇をすりぬけバイクのように停車している車列の一番前に出て停止線を越えて横断歩道の上に割り込んだ。
「これが軽のいいとこ。都内は信号が多いからBMWも軽も平均時速は同じ。国道は幅員にゆとりがあるから軽なら路肩走行が可能だ」と言いながら背伸びをするように前方にBMWを探した。
「いるぞ、この前の信号にとっつかまっている。ざまあみろだ」 
 そういう尾行の繰り返しが都心迄続いた。適度な距離があるので車の尾行としては適当だった。赤信号で停車するたびに路肩を通って前の車をすり抜けるという手法を使った。追い越される車の中には不快さを露にした運転手もいた。南條と一緒でなければ土岐もびびるところだ。警察官と一緒であればむしろ、そういう運転手に怒鳴り込んで来てもらいたいという心境だった。葛西橋を越えて永代通りに入ると交通は一寸ずりになった。そのたびに南條は土岐を車外に出して前方のBMWを確認させた。BMWは千代田区のビル街に入ると大手町のほぼ中央のブロックの一方通行の真ん中あたりで止まった。南條の車はそのブロックの三十メーターばかり手前の端に急停車した。BMWから降りたのは奈津子と運転手の二人だった。奈津子は地味なグレーのツーピースに着替えていた。
「降りるぞ」
と南條が号令をかけた。歩きながら土岐が心配する。
「駐車違反大丈夫ですか」
「昔は揉み消せた。今でも揉み消せないことはないが取締りをアウトソーシングしたもんだから手続きが面倒くさくってかなわない」