祭りのあと

と文言は同じだが奈津子の声ではなかった。
「永山奈津子さんおられますか?」
「今、席をはずしております」
「お話をしたいことがあるんですが、今日は何時ごろ退社ですか?」
「今日は彼女早番なので、三時の予定になっています」
「帰りの足はなんですか?」
「車です」
「BMWですか?」
「いいえ、スカイラインGTです」
と聞いて土岐は一瞬眉根に縦皺を寄せた。
「ボディは白でしたっけ?」
「いいえ、シルバーです」
「そうですか。BMWに乗ることはありませんか?」
「さあ、見たことはありませんが」
「伝言願えませんか?今日この時間にゲート前でお会いする約束したんですが急に所用ができて行けなくなったので連絡して下さい」
「はい、承知しました。で、お名前は」
「住田といいます」
 午後一時を過ぎると南條の携帯電話に掛けた。
「永山奈津子はシルバーのスカイラインGTに乗っているようで、BMWは通勤に使っていないようです。運転手の男のことはまだわかりません。彼女今日は早番で、三時ごろ帰宅だそうです」
 そう土岐が力なく言うと、南條は暫く考え込んでいるようだった。
「署に二時ごろ迄に来られるか?」
「所長の許可をとらないと」
「それじゃ、とってくれ」
と用件だけ言って切れた。土岐はすぐ、深野の机の前に行った。
「午前中に報告したCDLの風評被害の件で、墨田署の南條刑事が今日これから相談にのってくれるというので、早退したいのですが」
「それも業務の一環と言えないこともない」
と深野は元気なく言う。土岐は亜衣子に早退を告げて墨田署に向かった。墨田署に到着したのは二時少し過ぎだった。建物入って受付で南條を呼び出そうとしたら薄暗い階段を膝のぬけたよれよれズボンのガニ股が下りてきた。
「よし、行こう」
と南條は行き先も言わずに署の建物を出た。
「どこへ?」
と土岐はさすがに訊ねずにはいられなかった。
「この通りの裏の駐車場だ」
とぶっきらぼうに言う南條の早足について行くと署の裏手に五台ばかり駐車できるスペースがあり年季の入った赤い軽自動車が一台だけ駐車していた。南條の指示に従って乗り込んだ。窮屈だった。助手席を目いっぱい後ろに引いても、膝が少しつかえた。
「こんなの警察は使ってるんで?暴走族に簡単にまかれちゃう」
「こんなんで悪かったな。これは私物だ。ガソリンは公費だが」