祭りのあと

 南條は目を泳がせ思い出すようにしてバッジのオスとメスを両手の親指と人差し指に挟み右手の指を回転させる。
「止めるところは壊れていたんだ。焼き物だからな。でも、雰囲気としてはこんな感じだから、ということは、ねじ止めか」
「それじゃあnかjかどっちかわからないですね。だけどねじ止めで焼き物のバッジというのは見たことがないですけどね」
「そうだけど今日見た運転手のバッジはどうついてた?」
 今度は土岐が思い出す番だ。歩きながら運転手の右隣りから横をのぞき込むようにしてちらりと見た瞬間、首を少し斜めにしたせいなのか、串刺しは縦向きでも、横向きでもなく、斜めであったような気がした。自己紹介して、後部座席から改めて斜め正面からまじまじと見たときも斜めであったような気がした。
「斜めだったような気がするんですが、ねじ止めのバッジなら締め方次第で斜めになることもあるでしょうね。いや、そもそも傾きはどうでもいいのかも。あるいはペルシャ文字のnとjに似ているのは偶然で、全く違う意味なのかも。それにちらりと見ただけなので、正確にこれと同じであったかどうか、確信がもてません」
 そこに生ビールが来た。南條が凄むようにささやいた。
「おい、振り出しに戻すなよ。他になんかねえのか」
「楔文字は粘土板に刻まれ、重要な文書は焼かれて保存されて」
「現場に落ちてたバッジも焼き物だ。ということはねじ止めのオスのほうを抜けたり、ぐらぐらしないように粘土に差し込んで焼いたという訳か。その部分が壊れたということか。壊れやすいだろうな。少しはこれで前進したな。あとはその運転手だ。何の運転手だ」
「CDLの渉外係の人を運んでいた人で、長田とか言う人で、顔は四角くて目がギョロ目で、男の癖に上の眉毛も下の睫毛も異様に長かった。車は、なにわナンバーのBMWで」
と言いながら、土岐は携帯電話を取り出し、車の中で盗撮した長田の写真を南條に見せた。
「これが、その運転手なんですが見覚えありますか?」
「なんだ映りが悪いな。性別程度しかわからんじゃないか。でもまあ、ねえよりはいいか。なんとなくどこかで見たような気がしないでもないが。弁当箱みたいな四角い顔にげじげじ眉か」
と携帯電話の写真を遠ざけたり近づけたりして顔を顰めている。そのうち諦めて携帯電話を土岐に返した。
「とりあえず、俺の携帯に転送してくれ」