「お忙しいところわざわざお呼び立てして申し訳ありませんでした。これからは携帯電話でご連絡を差し上げます。お先に車でお待ち下さい。これはお呼び立てしたお詫びということではないんですが」
と奈津子はCDLのロゴ入りの小さな封筒を差し出した。土岐が封筒の口から中身を覗き見るとCDLの年間パスポートがはいっていた。顔写真のあるべきところに、
〈OFFICIAL〉
という文字が印字されていた。期限は大晦日迄になっていた。
土岐はレジに向かう奈津子の項と背中に男を惑わす妖気のようなものを感じながら駐車場に出た。アスファルトに底冷えのするような冷気が漂っていた。運転手も出てきた。二人は合流し車に向かうかたちになった。運転手は冬物の厚地の黒っぽいスーツを着ていた。車に向かって歩きながら運転手に追いついてちらりと脇を見たとき、彼の胸にどこかで見たことのあるようなマークのバッチがついているのに気付いた。運転手は終始無言だった。土岐も言い出す言葉が見つからないままだった。そこに奈津子が遅れてやってきた。
「紹介が遅くなってごめんなさい。こちら、遠い親戚の長田さん。私の車の調子がよくないので、今日は運転手をお願いしました」
土岐と長田は座席の前後に座ったままで改めて挨拶した。
「土岐明といいます。今日はアルバイトの関係でここに来ました」
と長田のフラワーホールのバッジをちらりと見た。長田は無言のまま頭を下げた。その顔に土岐は見覚えがあるような気がした。
「舞浜駅でよろしいですね」
と奈津子が発車を促すように言った。
「ええ、おねがいします」
と土岐が答えると車が動き出した。車は地面をなめるようにして加速した。駅に向かう車の中で土岐は携帯電話の着信記録を確認するような振りをして、バックミラーに映る長田の顔を盗撮した。襟穴のバッジは写すことはできなかった。
舞浜駅前で車を降りてそこからどこへ行くべきか土岐は迷った。既に三時を過ぎていた。これから統計研究所に向かっても、着くのは四時過ぎで、深野も、直帰でいい、とは言ってくれていた。
と奈津子はCDLのロゴ入りの小さな封筒を差し出した。土岐が封筒の口から中身を覗き見るとCDLの年間パスポートがはいっていた。顔写真のあるべきところに、
〈OFFICIAL〉
という文字が印字されていた。期限は大晦日迄になっていた。
土岐はレジに向かう奈津子の項と背中に男を惑わす妖気のようなものを感じながら駐車場に出た。アスファルトに底冷えのするような冷気が漂っていた。運転手も出てきた。二人は合流し車に向かうかたちになった。運転手は冬物の厚地の黒っぽいスーツを着ていた。車に向かって歩きながら運転手に追いついてちらりと脇を見たとき、彼の胸にどこかで見たことのあるようなマークのバッチがついているのに気付いた。運転手は終始無言だった。土岐も言い出す言葉が見つからないままだった。そこに奈津子が遅れてやってきた。
「紹介が遅くなってごめんなさい。こちら、遠い親戚の長田さん。私の車の調子がよくないので、今日は運転手をお願いしました」
土岐と長田は座席の前後に座ったままで改めて挨拶した。
「土岐明といいます。今日はアルバイトの関係でここに来ました」
と長田のフラワーホールのバッジをちらりと見た。長田は無言のまま頭を下げた。その顔に土岐は見覚えがあるような気がした。
「舞浜駅でよろしいですね」
と奈津子が発車を促すように言った。
「ええ、おねがいします」
と土岐が答えると車が動き出した。車は地面をなめるようにして加速した。駅に向かう車の中で土岐は携帯電話の着信記録を確認するような振りをして、バックミラーに映る長田の顔を盗撮した。襟穴のバッジは写すことはできなかった。
舞浜駅前で車を降りてそこからどこへ行くべきか土岐は迷った。既に三時を過ぎていた。これから統計研究所に向かっても、着くのは四時過ぎで、深野も、直帰でいい、とは言ってくれていた。


