祭りのあと

「両親はその夜、吾妻橋から出ている水上バスの発着所から屋形船に乗って隅田川から花火大会を満喫した。父親は関東が初めてで隅田川の花火大会も初めてで花火大会自体は関西にもあるから屋形船で天婦羅を食べながら花火を見たかった。娘は風邪気味だったので一人、自宅に置いてきたとか言っていた。クルージングが終わってから駒形橋でどじょう鍋を食べて帰宅したのは十二時近くだった。娘の部屋を覗くともぬけの殻なので多分病気が良くなって花火を見に外出し、こちらに来てできた友人と楽しんでいるのだろうと、あまり気にしなかったと言っていた。確かに、浅草に来た早々、深夜のカラオケ店で友人と補導されてるし、あまり素行は良くなかった」
と言う南條の話を聞いても亜衣子は腑に落ちない感じだった。
「両親が外出して、娘が一人。なんか、とってもよく似ている」
 その晩は結局それ以上話は進展しなかった。その店を出て南條と別れた土岐と亜衣子は都バスで言問通りを上野公園方面に向かった。
「谷中に叔母が住んでるの。近く迄来たからちょっと寄ってみる」
と亜衣子がまばらな時刻表を見ながら言う。1時間に1本か2本しかないバスを二十分程待って乗り込んだバスの中で亜衣子が、
「二人のお母さんに似ている点があるの気付いた?」
と話しかけてきた。座席が狭いせいで、二人掛けの椅子に腰と太腿を密着させていた。乗客は十数人程だったが、寒かったので同じ席に座ることになった。
「気付いたって何に?」
「何かあの二人似てる」
と言いながら、亜衣子は土岐に密着している下半身に間隙を作ろうともぞもぞしている。
「似てるったて、あかの他人でしょ?」
「顔じゃなくって気質が。お茶も出なかったし。ホスピタリティが全然感じられなかった。突然伺ったんだから、歓待されることは期待してないけどお線香をあげに行ったのに、その気持ちを受け取る、という心のもてなしがなかったわ。素っ気ないというか、何というか、人の心が少しも感じられない。不幸な死に方をした娘の話をしているのにしんみりとしたところも全くなかったし」
「二人目のお母さんの場合、娘がなくなって半年以上もたっている」
「半年しかよ。あなたは男だから分からないかも知れないけど女にとって命は全てなの。身内の命だけじゃなくって、全ての人の命、ペットの命だってかけがえがないもの」
と亜衣子が湿っぽく言う。