祭りのあと

 南條の煙草に煙そうな顔をしていた亜衣子がついに口を開いた。「ということはそういう事案を探せばいいということじゃなくって。東京や千葉近辺や大阪近辺から転校してきて自殺した少女を探して、自殺の原因が不明であれば仮説は実証されたことになるんじゃ」
「待て」
と南條が灰皿にピースの灰を落としながら口を挟んだ。
「CDLにしてもWSJにしても大勢の小中高生が全国から修学旅行やなんだらでやってきているはずだ。そういう連中も次の年に事故死したり原因不明の自殺をとげるってことか?そうであればそういう事案は全国に展開しているはずだ。それに何で女の子だけ?」
と言われて土岐は目線をテーブルの灰皿の上に落とした。CDLやWSJの近辺とそれ以外の土地の相違が何かを必死に考えていた。亜衣子も同様だった。先に口を開いたのは亜衣子だった。
「リピーターよ。パスポートを持っているのは近場の小中高生以外に考えられない。大勢の修学旅行生が全国からやってくるけど彼らはリピーターにはなれない。絶対的な人数は近場の小中高生の方が圧倒的に多いはずよ。だって近くの小学生なんか先生が手を抜いて総合学習で毎年のようにテーマパークに行くんじゃない。それに近場の子供達が無料で招待されることもあるでしょ」
「だから統計学的に確率的に有意な仮説だと言っている」
「でも、なぜだ。単なる偶然じゃねえのか?」
と南條は繰り返した。煙草の脂でくすんだ天井の一点に視線を固定させて、ピースの紫煙をくゆらせながらじっと思案している。老婆が来る迄料理を注文することをすっかり忘れていた。
「お前らよ、管内でそういう事案を過去にさかのぼって調査してやっから、そっちでも何か分かったことがあればメールで教えてくれ」
と生ビールを飲み干した。
「でも、あの女子高生の両親は花火大会の夜、娘が夜中に抜け出したことをなんで気付かなかったのかしら?」
と亜衣子が先刻からわだかまっていた疑問をぽつりと言った。