祭りのあと

という土岐の追加説明で、亜衣子もしぶしぶのれんを潜った。店内にはカウンターに四五席、四人掛けのテーブル席が二つ、奥の座敷に四人用の卓袱台のようなテーブルが三つあった。手書きの予約カードが二箇所に置かれていた。南條はダスターコートをさっさと畳んで、一番奥の座敷に陣取っていた。土岐と亜衣子が、ものめずらしそうに店内をきょろきょろ見回しながら席に着くと、
「どんどん注文して」
と南條は店の主人の手書きのメニューを二人に見せた。二つ折りにした半紙に筆書きされたどのメニューも五百円以下だった。お通しは海鮮サラダの和風ドレッシング和え。大皿に山盛りになっていた。
 注文をとりに来たのは足元のおぼつかない老婆だった。
「最初は生ビール、料理の注文はそのあと。とりあえず大なま三つ」と南條が言うと、程なく生ビールが三杯運ばれてきた。
「WSJがどうしたって?全部吐け」
と南條が野球帽をかぶったまま両肘をテーブルにつき怒気のこもったしゃがれ声で凄んだ。亜衣子がダウンコートを脱ぎながら目配せをしてきた。土岐が説明した。
「未成年の事故死の統計を見てたらCDLやWSJが開園してから古くは大阪万国博覧会の翌年もその周辺の都府県で原因不明の女子の自殺や事故死が増えてることが分かったんです。今夜の話でタイムラグが1年位であることが実証されたんです」
「するってえと、CDLやWSJに遊びに行った未成年の女の子が1年たつと事故死したり、原因不明の自殺をするというのか?」
「遊びに行った未成年の女子の全てが自殺するというのではなくて、未成年千人あたりの比率として周辺の都府県の大きさがそれ以外の道県よりも高いということなんです」
と土岐は弁解するように言う。
「何で?」
と聞きながら南條は煙草にジッポライターで火をつけた。
「それがわからないんです」
といい終えたところで亜衣子は自分のお通しのサラダを食べ終えていた。土岐は自分の分を亜衣子に差し出して話を続けた。
「自殺率がCDLとWSJが開園した翌年から少し高くなっているんですが、確かにそういう女の子が二人もいたと」
「水野さんの女の子は東京に来て自殺したがお母さんの実家が北海道であれば北海道で自殺したということか?」
と南條は土岐に聞く。
「確率的にそうだということで」