祭りのあと

と儀礼的に言う。女は路地に佇んでいた土岐と亜衣子に屈託なく声を掛けた。三人とも三和土にあがり靴を脱ぐと玄関右奥の8畳の客間に通された。床の間の右手に小さな仏壇があり、香でいぶされた位牌の間にそれらしい少女のセーラー服写真があった。仏壇の奥の正面には描かれた阿弥陀如来像があった。かなり古そうで金泥が殆どはげ落ちていた。その両脇に数本の位牌があり、一本だけ真新しいものがあった。手前の茶湯器、香炉、燭台、花立仏器、供物台も古色蒼然としていて、線香の煙がこびり付いているようだった。仏壇の前に一枚だけ敷かれた座布団に座り、最初に南條が備え付けのマッチでろうそくに火をつけた。パラフィンの燃焼する臭いが鼻についた。線香を一本取り出し焼香し、線香の火を手で消し、香炉に立て仏壇に香典袋を置いた。線香の香りが部屋に漂い始めた。南條はリン棒でリンを鳴らすと早口で般若心経を暗誦した。暗誦し終えると後ろで正座していた中年の女に向き直り、自らの正座を崩した。
「その後お嬢さんについて何か分かったことありますか?」
という南條の問いに中年女は目を伏せてかぶりをふり、
「いえ何も。でもその節は大変お世話になりました」
と能面のような蒼白の表情で単調に答えた。亜衣子が切り出した。
「私、南條刑事と同じ組織で働いてる能美亜衣子と申します。お嬢さんの事案を調査してます。つかぬことをお伺いしますがお嬢さんは千葉ドリムランドへ行かれたことがありましたか?」
 中年女は亜衣子の背後の襖に目線を移て、少し記憶の糸をたどるような素振りを示した。
「行ったことはないと思います」
「お嬢さんのお友達を紹介してもらえませんか?」
「友達がいたのかどうか。友達ができないって嘆いていたくらいで」
「自殺の動機の一つとしてあげられていた」
と南條がつぶやいた。
「小中の友達は?」
と亜衣子が質問の穂を穏やかな口調でつないだ。
「娘は高校二年のときにこちらに引っ越してきたもんで」
「えっ。それじゃそれ迄はどちらに?」
と南條が割って入ってきた。
「主人の転勤の関係で関西の方に。この家は私の実家なんです」
「大阪で?」
と礼拝を終えた土岐は自己紹介もせず質問した。