「部落のことをムラとも言う。ここのムラの連中はみんな信心深い。その七福神は浅草ばかりじゃなく、谷中にもあるが。この辺一帯に住んでいた人々は、とくにいわくのある、世間からしいたげられた人間が多い。それだけに人並みに幸せになりたいという、強い願いが現世の不遇に対するうらみ、つらみ、ねたみ、そねみ、やっかみと合わせ鏡の熾のようになって、この界隈を徘徊している。それはともかく、七福神には終戦直後から続く、七不思議がある」
「へえー何ですかそれ?」
と土岐が調子の外れた合いの手を入れた。
「同額のお賽銭が同じ日に入れられる。昭和三十年頃、それぞれ聖徳太子の千円札が一枚、政府紙幣だった板垣退助の百円札が一枚、国会議事堂の十円札が三枚と二宮尊徳の一円札が四枚ずつ、昭和四十年頃は十円札と一円札が硬貨に変わり、それから聖徳太子の千円札が伊藤博文に変わったが、金額は千百三十四円で変わっていない」
「その政府紙幣って何ですか?」
「日本銀行ではなくって、政府、つまり大蔵省が発行した紙幣のことだ。昭和五十年以降は百円札がコインになり、いまじゃ、お札は千円札が夏目漱石から野口英世に変わってあとは全部硬貨だ。それでも金額は千百三十四円で変わっていない」
「金額にこだわっているんですね。何かのげんかつぎなんですかね。でも、どうして分かったんですか?」
と亜衣子が自分の表情の見え方を意識しながら、首をかしげて聞く。
「神社の宮司の寄り合いで昔たまたまその話が出た。当時は高額な賽銭だったからすぐに話題になった。日雇いの日給が五百円もしない時代だ。時代とともに物価が上昇したんで、貨幣価値が下がって、いまじゃ千百三十四円なんてたいした金額じゃないが、いつのころからか、七福神の七不思議と言われるようになった。もちろん、これは地元の連中しか知らねえ話だ」
と言いながら南條は鼻をすする。
「七福神社に賽銭入れたのは同一人物とか?」
「まあ、そうだろうな。偶然同じ日に同じ金額を、ということは考えにくいし別の人が結託してお賽銭を入れるとも考えにくい。七箇所全部歩いて回ると三十分以上掛かるから二三人でやったということはあるかも知れねえ。最近じゃ他のお賽銭と混ざってしまうのか、その金額が今でも賽銭箱に入れられているのかどうか、分からんと言う話だが、会うと宮司たちは今でも続いていると言い張ってる」
「へえー何ですかそれ?」
と土岐が調子の外れた合いの手を入れた。
「同額のお賽銭が同じ日に入れられる。昭和三十年頃、それぞれ聖徳太子の千円札が一枚、政府紙幣だった板垣退助の百円札が一枚、国会議事堂の十円札が三枚と二宮尊徳の一円札が四枚ずつ、昭和四十年頃は十円札と一円札が硬貨に変わり、それから聖徳太子の千円札が伊藤博文に変わったが、金額は千百三十四円で変わっていない」
「その政府紙幣って何ですか?」
「日本銀行ではなくって、政府、つまり大蔵省が発行した紙幣のことだ。昭和五十年以降は百円札がコインになり、いまじゃ、お札は千円札が夏目漱石から野口英世に変わってあとは全部硬貨だ。それでも金額は千百三十四円で変わっていない」
「金額にこだわっているんですね。何かのげんかつぎなんですかね。でも、どうして分かったんですか?」
と亜衣子が自分の表情の見え方を意識しながら、首をかしげて聞く。
「神社の宮司の寄り合いで昔たまたまその話が出た。当時は高額な賽銭だったからすぐに話題になった。日雇いの日給が五百円もしない時代だ。時代とともに物価が上昇したんで、貨幣価値が下がって、いまじゃ千百三十四円なんてたいした金額じゃないが、いつのころからか、七福神の七不思議と言われるようになった。もちろん、これは地元の連中しか知らねえ話だ」
と言いながら南條は鼻をすする。
「七福神社に賽銭入れたのは同一人物とか?」
「まあ、そうだろうな。偶然同じ日に同じ金額を、ということは考えにくいし別の人が結託してお賽銭を入れるとも考えにくい。七箇所全部歩いて回ると三十分以上掛かるから二三人でやったということはあるかも知れねえ。最近じゃ他のお賽銭と混ざってしまうのか、その金額が今でも賽銭箱に入れられているのかどうか、分からんと言う話だが、会うと宮司たちは今でも続いていると言い張ってる」


