「食いもんじゃねえよ。招き猫の置物だ。なんつーか有名な焼き物と比べると肌が綺麗じゃないし、茶道で使う物と比べると上品でもない。景色も凡庸だ。いい女とは言えないのを今土焼きというんだ」
「ありがとう」
と亜衣子は土岐の顔を見ながら少し首を傾けた。
「長生きしたけりゃ今戸神社にお参りする。さっき渡った白鬚橋の右の石浜神社に寿老神。福禄寿と似たようなもんだが、どっちかってえとこっちは健康。まあ健康であれば長生きするから同じようなもんだ。通りがかった左の不動院に布袋尊、布袋和尚とも言うが、これは心が広く大きくなる、人の上に立ちたければということかな」
「まだ六つ」
と亜衣子が福神を復唱し右手の指を折りながら応えた。
「吉原神社に弁財天。これは吉原にぴったりだ。いまはソープランドになっちまってるけど指名をもらいたければ、人気者になりたければ、御参りする。男にもてるようになるぞ」
と南條は亜衣子の肩に手を置こうとして行き先を失って宙を泳いだ。
「土岐君は行ったことあるの?」
と亜衣子があけすけに聞いてきた。
「先立つものが」
と土岐が待乳山聖天の境内を見渡しながら答えた。
「その弁才天だけがここからちょっと遠いかな。と言っても歩いても十分はかからない。これから伺うお宅はその途中の千束通りだ」
それを聞いて土岐はまだ歩くの言いたげにうんざりしたような顔をした。南條はしっかりした足取りで若い二人よりは元気に歩いていた。革靴の先が口を開けていて、ぺたぺたと音を立てている。
「お前ら七福神なんぞ信じちゃいまい。信じる信じないは勝手だが、何百年にもわたってこうして七福神が存在し、それを守る宮司がいて賽銭を喜捨する信者もそこそこにいることを忘れちゃいけねえ。お前ら若い者は自分に興味のないもんは全て存在しないような態度を見せるが、それは傲慢てえもんだ。このムラに住んで何百年にもわたって信じ続けた人々の切なる思いを感じ取らなきゃいけねえ」
「いまムラって言いましたよね」
と亜衣子が確認するように言う。
「ありがとう」
と亜衣子は土岐の顔を見ながら少し首を傾けた。
「長生きしたけりゃ今戸神社にお参りする。さっき渡った白鬚橋の右の石浜神社に寿老神。福禄寿と似たようなもんだが、どっちかってえとこっちは健康。まあ健康であれば長生きするから同じようなもんだ。通りがかった左の不動院に布袋尊、布袋和尚とも言うが、これは心が広く大きくなる、人の上に立ちたければということかな」
「まだ六つ」
と亜衣子が福神を復唱し右手の指を折りながら応えた。
「吉原神社に弁財天。これは吉原にぴったりだ。いまはソープランドになっちまってるけど指名をもらいたければ、人気者になりたければ、御参りする。男にもてるようになるぞ」
と南條は亜衣子の肩に手を置こうとして行き先を失って宙を泳いだ。
「土岐君は行ったことあるの?」
と亜衣子があけすけに聞いてきた。
「先立つものが」
と土岐が待乳山聖天の境内を見渡しながら答えた。
「その弁才天だけがここからちょっと遠いかな。と言っても歩いても十分はかからない。これから伺うお宅はその途中の千束通りだ」
それを聞いて土岐はまだ歩くの言いたげにうんざりしたような顔をした。南條はしっかりした足取りで若い二人よりは元気に歩いていた。革靴の先が口を開けていて、ぺたぺたと音を立てている。
「お前ら七福神なんぞ信じちゃいまい。信じる信じないは勝手だが、何百年にもわたってこうして七福神が存在し、それを守る宮司がいて賽銭を喜捨する信者もそこそこにいることを忘れちゃいけねえ。お前ら若い者は自分に興味のないもんは全て存在しないような態度を見せるが、それは傲慢てえもんだ。このムラに住んで何百年にもわたって信じ続けた人々の切なる思いを感じ取らなきゃいけねえ」
「いまムラって言いましたよね」
と亜衣子が確認するように言う。


