「その言葉はタブーだ。知らねえ人が何気なく使うことに敏感に反応する輩がいるから気をつけなきゃいけねえ」
と言いながら、南條はあたりに人がいるかどうか見渡した。
「その囲われ者ってどうゆう素性の人なんですか?」
「そういう私的な調べはやっちゃいけないことになってる。警察機構を使えば容易に素性を知られるが禁じられてる。捜査以外の目的で情報を得てはいけないんだ。俺は署内のしょうもないルールや決まりごとは平気で破るが社会のルールは一応守ることにしている」
通りの左手に見晴らしのいい空間が拡がってきた。川沿いの河川敷が整備されて運動公園になっていた。野球場が2面、その隣にテニスコートが5面あった。野球場には巨大な夜間照明が6本屹立している。テニスコートの夜間照明はその半分の大きさもない。狭い二車線の一方通行の道路を望むように運動公園の事務所ビル兼体育館が建っていた。体育館を通り過ぎたところに、古い橋柱がぽつんと立っていた。モルタルの浮き彫りで、
〈いまどばし〉
とあった。二三十メートル先にも同じ造りで、
〈今戸橋〉
とあった。
「川もないのに欄干みたいなのが。なんじゃこれ」
「欄干じゃない。橋柱だ。橋げたを支える柱だ。道路向こうに細長い公園があるだろう。あれは山谷堀を暗渠にしたもんだ」
と南條が待乳山聖天の三階建ての社務所を指差し薀蓄を垂れ始めた。
「ここのご本尊は大聖歓喜天だ。庶民の迷いを救い願いをかなえてくれるんだ。これを守護しているのが毘沙門天。一緒に祀られてる。毘沙門天は上杉謙信の守護神として有名だな。ご本尊より有名かな。なんせ浅草七福神の一人だから。出世したけりゃ御参りしな」
土岐は南條の話を無視するようにつまらなそうな顔をしていた。亜衣子が気を利かせて合いの手を入れた。
「あとの六福神は?」
南條は嬉しそうに話を続けた。
「一番有名なのは浅草寺の大黒天。金持ちになりたきゃお参りしな」と言いながら土岐の衣紋掛けのような肩をわざとらしく叩いた。
「ついで同じ敷地の浅草神社の恵比寿。心の平安を得たければ御参りすることだ。失恋したときとか。いま通り過ぎた路地の奥の今戸神社に福禄寿がいる。あんたと正反対の女性を今戸焼って言うんだ」と亜衣子の方を南條は顎でしゃくった。
「今川焼きじゃないのかしら?」
と言いながら、南條はあたりに人がいるかどうか見渡した。
「その囲われ者ってどうゆう素性の人なんですか?」
「そういう私的な調べはやっちゃいけないことになってる。警察機構を使えば容易に素性を知られるが禁じられてる。捜査以外の目的で情報を得てはいけないんだ。俺は署内のしょうもないルールや決まりごとは平気で破るが社会のルールは一応守ることにしている」
通りの左手に見晴らしのいい空間が拡がってきた。川沿いの河川敷が整備されて運動公園になっていた。野球場が2面、その隣にテニスコートが5面あった。野球場には巨大な夜間照明が6本屹立している。テニスコートの夜間照明はその半分の大きさもない。狭い二車線の一方通行の道路を望むように運動公園の事務所ビル兼体育館が建っていた。体育館を通り過ぎたところに、古い橋柱がぽつんと立っていた。モルタルの浮き彫りで、
〈いまどばし〉
とあった。二三十メートル先にも同じ造りで、
〈今戸橋〉
とあった。
「川もないのに欄干みたいなのが。なんじゃこれ」
「欄干じゃない。橋柱だ。橋げたを支える柱だ。道路向こうに細長い公園があるだろう。あれは山谷堀を暗渠にしたもんだ」
と南條が待乳山聖天の三階建ての社務所を指差し薀蓄を垂れ始めた。
「ここのご本尊は大聖歓喜天だ。庶民の迷いを救い願いをかなえてくれるんだ。これを守護しているのが毘沙門天。一緒に祀られてる。毘沙門天は上杉謙信の守護神として有名だな。ご本尊より有名かな。なんせ浅草七福神の一人だから。出世したけりゃ御参りしな」
土岐は南條の話を無視するようにつまらなそうな顔をしていた。亜衣子が気を利かせて合いの手を入れた。
「あとの六福神は?」
南條は嬉しそうに話を続けた。
「一番有名なのは浅草寺の大黒天。金持ちになりたきゃお参りしな」と言いながら土岐の衣紋掛けのような肩をわざとらしく叩いた。
「ついで同じ敷地の浅草神社の恵比寿。心の平安を得たければ御参りすることだ。失恋したときとか。いま通り過ぎた路地の奥の今戸神社に福禄寿がいる。あんたと正反対の女性を今戸焼って言うんだ」と亜衣子の方を南條は顎でしゃくった。
「今川焼きじゃないのかしら?」


