祭りのあと

 玄関を上がるとすぐに8畳のダイニング。右側にキッチン、左側にトイレと風呂場。中年女はダイニングの奥の左側の居間に三人を通した。団地サイズの六畳の居間の左側の壁際に低い座机、その上に乳白色の骨壷がむき出しのまま置かれていた。その後ろに真剣なまなざしで背面跳びでバーをクリアする少女の写真と墨田区民大会走り高跳び第三位の賞状が額入りで立てかけてあった。骨壷の傍らにアニメに登場するキャラクターのぬいぐるみが十数個配置されていた。亜衣子の目がそれに釘付けになった。放心したようにその前に正座した。その様子を土岐は怪訝そうに眺めていた。南條と土岐は代わる代わる香典を骨壷の前に置き、ぎこちなく手を合わせた。南條はコートと野球帽を畳の上に置いた。櫛の通っていない薄い髪を整えることもなく軽くお辞儀をした。頭頂部が薄くなっていた。南條が般若心経を暗誦し終えて、中年女の方に膝を向けた。
「あの子をここ迄育てるのにいくらかけたことか」
と女が垂れ下がった瞼の下の目を三角にして南條ににじり寄った。黒地の厚手のサテンに金ラメで竜の刺繍が胸から腹にかかっていた。
「この印のついたバッジのようなものに見覚えありません?」
と南條は女を制するように手帳に書き込んだマークを突き示した。
「さあ、それなんですか?」
と言う女の目付きを南條は眼やにの付いた目で食い入るように見た。
「お嬢さんの遺体の付近に落ちていたんですが」
「それが分かると、何かが分かるんですか?」
「もし事件だとしたら犯人に繋がるかどうか。とにかくこれがなんだか分からないもんで。お嬢さんと関係があるのかないのか」
と言いながら南條は手帳を引っ込めた。脈はなさそうだと言いたげに半袖ワイシャツのポケットに手帳を捻込んだ。
「クラブ活動の同級生の話だと風邪を引いてたとか」
「そうね。熱があったみたいで。何か関係あるんですか?」
「まだ流行してないのに風邪をひいてたというのが。それから不審な男がここの住民に目撃されているんですが、何か心当たりは?」
「そいつが犯人なんですか?」
と女は答えずに逆に聞いてきた。
「それも関係があるのかないのか、分からないもんで」
と言ったのを合図に南條はもう一度、女に深々と頭を下げた。
「一応自殺ということにはなってはいますが今後とも必要に応じて捜査を続けますんで何か気が付いたことがあれば、こちらに電話を」