と亜衣子が首を傾げながら近寄ってきた。土岐は携帯電話で南條から転送されたブログにアクセスした。
「へえー、敬子ってんだ」
土岐の携帯画面に、
〈敬子の独白〉
というブログが映し出された。
「最後の書き込み見せて」
と亜衣子が携帯電話をのぞき込んできた。土岐は立ち止まった。最後の書き込みは、
〈自殺したい〉
とあった。
「自殺にしてはできすぎてるね」
と土岐が素直にぽつりともらした。
「そうね、彼女の携帯で書き込まれたとしても、彼女が書き込んだとは限らないしね。そんなことはログを調べればすぐにわかることなんだけど、調べたのかしら」
と言いながら亜衣子は歩き出した。振り向きながら土岐が付いて来るのを確認した。
「いくらなんでも、その程度のことはしてるでしょ」
「そんなこと分からないでしょ」
「どうして?」
「本人の携帯から書き込まれたとしてもそれが本人とは限らない」
土岐は黙った。寂しい裏通りから5分足らずで明治通りに出た。片側2車線の幹線道路の左右を見渡しながら、
「ねえ、少し早いけど、そろそろランチにしない?」
と何かを発見したように亜衣子が車の騒音に負けないように叫んだ。二人は交差点を錦糸町方面に渡り墨堤通り沿いのステーキハウスに入った。昼食を取りながら現場検証の復習と午後の計画を立てた。
「飛び降りたのが日曜日の朝で葬儀が火曜日の午後ということは火葬を延ばしたのかもね。やっぱり何か不審な点があったのよ」
とミディアムレアを頬張りながら亜衣子が言う。食後はブレンドコーヒーをゆったり飲み携帯電話のナビで火葬場迄の道を確認した。店を1時すぎに出た。最初に白鬚橋を渡った。橋の下を隅田川が滔々と流れていた。明治通りをひたすら西に歩いた。途中泪橋の交差点を通り過ぎた。交差点の傍らに、
〈あしたのジョー記念碑〉
があった。
「丹下段平の泪橋か。山谷が近いのか。靴屋の看板も多いし、江戸時代からの皮なめしがずっと続いているんだ」
と土岐が感慨深げに言うと、
「タンゲダンペイって、誰?」
と亜衣子が怪訝そうに聞いた。
「『明日のジョー』を知らないのか。まあ、ケーブルテレビのリバイバルアニメシリーズだから無理もないか。恐らく丹下段平は島崎藤村の破戒の『我はエタなり』じゃないかな」
「さっき部落問題が何とかという看板があったわね。すごく古そうで字がかすれて良く見えなかったけど」
「へえー、敬子ってんだ」
土岐の携帯画面に、
〈敬子の独白〉
というブログが映し出された。
「最後の書き込み見せて」
と亜衣子が携帯電話をのぞき込んできた。土岐は立ち止まった。最後の書き込みは、
〈自殺したい〉
とあった。
「自殺にしてはできすぎてるね」
と土岐が素直にぽつりともらした。
「そうね、彼女の携帯で書き込まれたとしても、彼女が書き込んだとは限らないしね。そんなことはログを調べればすぐにわかることなんだけど、調べたのかしら」
と言いながら亜衣子は歩き出した。振り向きながら土岐が付いて来るのを確認した。
「いくらなんでも、その程度のことはしてるでしょ」
「そんなこと分からないでしょ」
「どうして?」
「本人の携帯から書き込まれたとしてもそれが本人とは限らない」
土岐は黙った。寂しい裏通りから5分足らずで明治通りに出た。片側2車線の幹線道路の左右を見渡しながら、
「ねえ、少し早いけど、そろそろランチにしない?」
と何かを発見したように亜衣子が車の騒音に負けないように叫んだ。二人は交差点を錦糸町方面に渡り墨堤通り沿いのステーキハウスに入った。昼食を取りながら現場検証の復習と午後の計画を立てた。
「飛び降りたのが日曜日の朝で葬儀が火曜日の午後ということは火葬を延ばしたのかもね。やっぱり何か不審な点があったのよ」
とミディアムレアを頬張りながら亜衣子が言う。食後はブレンドコーヒーをゆったり飲み携帯電話のナビで火葬場迄の道を確認した。店を1時すぎに出た。最初に白鬚橋を渡った。橋の下を隅田川が滔々と流れていた。明治通りをひたすら西に歩いた。途中泪橋の交差点を通り過ぎた。交差点の傍らに、
〈あしたのジョー記念碑〉
があった。
「丹下段平の泪橋か。山谷が近いのか。靴屋の看板も多いし、江戸時代からの皮なめしがずっと続いているんだ」
と土岐が感慨深げに言うと、
「タンゲダンペイって、誰?」
と亜衣子が怪訝そうに聞いた。
「『明日のジョー』を知らないのか。まあ、ケーブルテレビのリバイバルアニメシリーズだから無理もないか。恐らく丹下段平は島崎藤村の破戒の『我はエタなり』じゃないかな」
「さっき部落問題が何とかという看板があったわね。すごく古そうで字がかすれて良く見えなかったけど」


