といういらいらした南條の問い合わせから十数秒して、
「開場は二時すぎで式は三時からだとさ」
という返事が南條から亜衣子に伝達された。
「それじゃあ」
と南條は後ろ向きに右手を上げて会釈してそそくさと去って行こうとした。その足を亜衣子が再び止めた。
「監視カメラの映像は残ってなかったんですか?」
「そんなもん団地にあるかよ」
と南條は振り返りもせずに吐き捨てるようにして言った。
「言い忘れていたが、彼女の携帯電話に変な通話記録が残っていた。ここ数日間、毎晩十二時ごろだ」
と言いながら南條は踵を返した。
「どこからかかってきてるんです?」
と亜衣子が南條を追いかけた。
「この団地の公衆電話。利用者も殆どないんで撤去される予定だ」
「パパ活の恋人かなんかですかね」
「その可能性もある。さっきも聞き込みで言ってたけど近辺で不審な男が目撃されてる。若い男ではない。転落直前にも通話があった」
と南條はひらりと背を向けた。その背を亜衣子がまた振り返らせた。
「両親は真夜中に娘が部屋を出たことに気付かなかったんですか」
「その夜は町内会の無尽があって無尽のあと午前二時頃迄父親と町内会の連中が母親のスナックでカラオケをやってた。裏は取れてる」
「帰宅してお嬢さんのいないことに気付かなかったんですか?」
「娘は両親が部屋に入ることを日頃から嫌がってた。さっきのおばさんも言ってたがとくに父親を蛇蝎のごとく嫌っていた。水商売の母親ともうまくいっていなかったらしい。まあ分からんでもないな。思春期の娘が母親の水商売を嫌がる。父親のおじん臭いのを嫌う」
「両親は娘の死んだことを朝迄知らなかったんですか?」
と亜衣子が呆れたように嘆息する。土岐が会話に参加してきた。
「帰宅した時玄関の鍵は掛かってなかったんでしょ。変に思わなかったんですか」
「誰かが家にいるときは、鍵をかけない決まりになっていたらしい」と袖を通しただけのダスターコートの下の皺だらけのカーキ色のコール天のズボンと衿が垢でまみれた厚手のジャケットが寒そうに遠ざかって行った。土岐と亜衣子は狭隘な裏通りを明治通りの方角にひなびた神社の脇からとぼとぼと歩き始めた。幅員が5メートルもない道路には都営住宅の住民の路上駐車が数珠繋ぎになっていた。
「さっきのブログみせて」
「開場は二時すぎで式は三時からだとさ」
という返事が南條から亜衣子に伝達された。
「それじゃあ」
と南條は後ろ向きに右手を上げて会釈してそそくさと去って行こうとした。その足を亜衣子が再び止めた。
「監視カメラの映像は残ってなかったんですか?」
「そんなもん団地にあるかよ」
と南條は振り返りもせずに吐き捨てるようにして言った。
「言い忘れていたが、彼女の携帯電話に変な通話記録が残っていた。ここ数日間、毎晩十二時ごろだ」
と言いながら南條は踵を返した。
「どこからかかってきてるんです?」
と亜衣子が南條を追いかけた。
「この団地の公衆電話。利用者も殆どないんで撤去される予定だ」
「パパ活の恋人かなんかですかね」
「その可能性もある。さっきも聞き込みで言ってたけど近辺で不審な男が目撃されてる。若い男ではない。転落直前にも通話があった」
と南條はひらりと背を向けた。その背を亜衣子がまた振り返らせた。
「両親は真夜中に娘が部屋を出たことに気付かなかったんですか」
「その夜は町内会の無尽があって無尽のあと午前二時頃迄父親と町内会の連中が母親のスナックでカラオケをやってた。裏は取れてる」
「帰宅してお嬢さんのいないことに気付かなかったんですか?」
「娘は両親が部屋に入ることを日頃から嫌がってた。さっきのおばさんも言ってたがとくに父親を蛇蝎のごとく嫌っていた。水商売の母親ともうまくいっていなかったらしい。まあ分からんでもないな。思春期の娘が母親の水商売を嫌がる。父親のおじん臭いのを嫌う」
「両親は娘の死んだことを朝迄知らなかったんですか?」
と亜衣子が呆れたように嘆息する。土岐が会話に参加してきた。
「帰宅した時玄関の鍵は掛かってなかったんでしょ。変に思わなかったんですか」
「誰かが家にいるときは、鍵をかけない決まりになっていたらしい」と袖を通しただけのダスターコートの下の皺だらけのカーキ色のコール天のズボンと衿が垢でまみれた厚手のジャケットが寒そうに遠ざかって行った。土岐と亜衣子は狭隘な裏通りを明治通りの方角にひなびた神社の脇からとぼとぼと歩き始めた。幅員が5メートルもない道路には都営住宅の住民の路上駐車が数珠繋ぎになっていた。
「さっきのブログみせて」


