祭りのあと

と南條が少し振り返って言う。
「顔出すんで」
と土岐が足早に南條の前に出て顔を見て確認すると、
「署長が行けと言うんなら行くが、多分そういうことはねえだろう。事故とか事件絡みで病死とか所管内でも毎週のように葬式がある。手ぶらじゃいけねえし、全部付き合っていたら給料がなくなるよ」
「関係者が一同に会するんだから行く価値はあるんじゃ?」
と亜衣子が土岐に言ってから、
「ブログのURL教えてもらえます?南條さんの携帯の番号も」
と唐突に南條にお願いした。
「あんたのメルアドを教えてくれればそれを転送するよ。それから電話番号を教えて。カラ電話掛けっから」
という南條の言葉に亜衣子は自分のメールアドレスを言いかけたが、
「土岐さん、メルアドと番号教えてあげて」
と細い眉根を寄せて哀願するように言った。
「能美さんの携帯電話なら」
と土岐が亜衣子の電話番号を教えようとすると亜衣子が土岐の前に立って激しく首を横に振った。土岐が自分のメールアドレスと電話番号を教えると、南條はそのアドレスに少女のブログのURLを転送した。即座に土岐の携帯電話にメールの着信音が鳴った。ついでカラ電話の着信音も鳴った。
「いいかな?また何かあれば連絡して。何もなければこの件は多分自殺で処理される。事件でなければ俺の手からも離れる」
と潮時と言いたげのどんぐりまなこで南條は二人を交互に見据えた。
「葬式は何時?」
と歩きかけた南條に亜衣子が足止めの声をかけた。
「都心の火葬場は過密だから何時が取れたのかわからんけど多分正午は力関係からしてとれねえだろうから、そのあとの時間帯じゃ」と南條は二面あるテニスコートの方角に歩き始めていた。土岐と亜衣子も後に従う。都営団地のほぼ中央にある緑の金網の張り巡らされたテニスコートの脇に出た。主婦たちがのどかな歓声を上げながら黄色いテニスボールを追いかけていた。薄ら寒い風が舞っていた。
「署に帰るから」
と南條が左手の団地沿いの花壇に挟まれた遊歩道を指差した。
「火葬場に行くんだったら堤防沿いの神社脇の裏通りから明治通りに出て都バスの乗り継ぎか都電かタクシーだ。その前に火葬場に時間を確認しておいた方が」
と南條は携帯電話を取り出して火葬場に電話した。
「墨田署の者ですが、一昨日の都営団地の自殺の仏さん、平野敬子さんの葬儀は何時からです?まだ霊で仏にはなっていない?」