と南條は名刺を差し出した。男がドアを閉めた後、さっさとドアチ
ェーンを掛ける音がした。
「そのマークは何です?」
と土岐が南條の手帳を指差して言った。
「変なバッジのようなものが遺体の近くに落ちていたんだ」
「どんなバッジですか?」
と亜衣子は間髪を入れず問いただした。
「黒地にキンの図柄でその図柄が幾何学模様で、しかも焼き物だ」
と南條は内ポケットにしまいかけた市販の大判の手帳を広げた。
「三角形のお団子が3つ串刺しになっているのかしら?」
と亜衣子が手帳を覗き込んで言うと、
「三角のお団子なんかないでしょ。言うならこんにゃくかはんぺんが串刺しになってるおでん。焼き物って瀬戸物みたいなやつで?」
「粘土で形を作って、焼いたもの。事件とは無関係かも知れんが」
「現物はお持ちではないんですか」
「証拠品になるかも知れねえので、俺の机の引き出しにある」
「見てみたいですね」
と土岐が詮索がましく言う。南條はそれを無視した。通路に出た南條が腕時計を見た。
「じゃそろそろ、解散とすっか。相棒がそろそろ初動捜査の現場から戻ってくる時間だ」
と歩き始めた南條の背後から亜衣子が、
「お通夜と告別式はいつかしら?終わったのかしら?」
と思いついたように鋭い口調で尋ねた。後ろから土岐が口を挟んだ。
「日曜の朝に遺体が発見されてっから、お通夜はとっくに終わってるでしょ。保存技術は進歩しているだろうけど、いま暖冬だし」
南條が前を向いたまま答えた。
「日曜日の晩、通夜だった。事故死だったんで、日曜日の昼に検死が行われた。、死体検案書が書かれた。日曜日の夜に通夜なら、普通、月曜日に葬儀だが、斎場がとれなかったようだ。週明けは病院で死ぬ人が多いからな。とくに金持ちが多い。で、今日の午後、町屋の火葬場で葬儀と告別式だ」
亜衣子が南條の斜め後ろから聴く。
「何で週明けに死人が多いんですか?」
「最近、自宅で死ぬ人が少なくなってる。病院で土日に死者が出そうになると当直医はいいんだが自宅で休んでいる担当医を呼び出したり死亡診断書を書いたりしなきゃならない。だから土日に危篤状態になるとカンフル剤を打ったり生命維持装置をフル稼働したりして、とにかく月曜日迄もたせようとする。まあ、それはともかく、父親はこの近所の町工場の零細企業の経営者だし本人も中学生だから葬儀はひっそりとしたもんだろう」
ェーンを掛ける音がした。
「そのマークは何です?」
と土岐が南條の手帳を指差して言った。
「変なバッジのようなものが遺体の近くに落ちていたんだ」
「どんなバッジですか?」
と亜衣子は間髪を入れず問いただした。
「黒地にキンの図柄でその図柄が幾何学模様で、しかも焼き物だ」
と南條は内ポケットにしまいかけた市販の大判の手帳を広げた。
「三角形のお団子が3つ串刺しになっているのかしら?」
と亜衣子が手帳を覗き込んで言うと、
「三角のお団子なんかないでしょ。言うならこんにゃくかはんぺんが串刺しになってるおでん。焼き物って瀬戸物みたいなやつで?」
「粘土で形を作って、焼いたもの。事件とは無関係かも知れんが」
「現物はお持ちではないんですか」
「証拠品になるかも知れねえので、俺の机の引き出しにある」
「見てみたいですね」
と土岐が詮索がましく言う。南條はそれを無視した。通路に出た南條が腕時計を見た。
「じゃそろそろ、解散とすっか。相棒がそろそろ初動捜査の現場から戻ってくる時間だ」
と歩き始めた南條の背後から亜衣子が、
「お通夜と告別式はいつかしら?終わったのかしら?」
と思いついたように鋭い口調で尋ねた。後ろから土岐が口を挟んだ。
「日曜の朝に遺体が発見されてっから、お通夜はとっくに終わってるでしょ。保存技術は進歩しているだろうけど、いま暖冬だし」
南條が前を向いたまま答えた。
「日曜日の晩、通夜だった。事故死だったんで、日曜日の昼に検死が行われた。、死体検案書が書かれた。日曜日の夜に通夜なら、普通、月曜日に葬儀だが、斎場がとれなかったようだ。週明けは病院で死ぬ人が多いからな。とくに金持ちが多い。で、今日の午後、町屋の火葬場で葬儀と告別式だ」
亜衣子が南條の斜め後ろから聴く。
「何で週明けに死人が多いんですか?」
「最近、自宅で死ぬ人が少なくなってる。病院で土日に死者が出そうになると当直医はいいんだが自宅で休んでいる担当医を呼び出したり死亡診断書を書いたりしなきゃならない。だから土日に危篤状態になるとカンフル剤を打ったり生命維持装置をフル稼働したりして、とにかく月曜日迄もたせようとする。まあ、それはともかく、父親はこの近所の町工場の零細企業の経営者だし本人も中学生だから葬儀はひっそりとしたもんだろう」


