祭りのあと

「何でしょうか?」
と言いながら出てきたのは、ぼさぼさの頭の青年だった。腫れぼったい目をしている。その目が、女の声の主をさがしている。
「どうもすいません。日曜に飛び降りがあったのはご存知だと思いますがそれについて最近変わったことはなかったでしょうか?」
と南條が聞き、亜衣子が開いた手帳にボールペンを立てた。
「飛び降りた子だと思うんですが先週の夜おじさんと一緒にそこのコンビニにいたような気がします」
と亜衣子の顔をちらちらと見る。
「その女の子とは知り合いですか?」
「知り合いじゃないけど、夜中のコンビニでよく出くわしたもんで」
「男の方はどんな人物だった?」
と南條がせいたように聞いた。
「ここの住民じゃないと思うけど。眉毛が太くて四角い顔でちょっとアイヌ人か沖縄の人みたいな感じで」
と寝巻き代わりのジャージの上から尻をぼそぼそと掻く。南條が間をあけずに矢継ぎ早に聞く。
「職業のようなものは分かりました?何か変わったような点は?」
「変わっているかどうか、冬物のジャケットを着てました」
「それがどうかしましたか?」
と不思議そうな顔で南條が聞く。
「冬物だから別にあれだけど。僕はジャケットは着付けないもので」
「えっ?」
と亜衣子が呆れたように聞き返した。
「そのジャケットのえりのところに学生ボタンみたいなのが」
「ジャケットの衿穴に学生ボタン?」
と今度は南條が聞き返した。
「だから、変だなと思ったんです」
「そりゃ変だ」
と南條が同意した。
「他には?」
「べつに」
と言ってから沈黙があった。
「お休みのところお邪魔しました」
と南條が言うと男は名残惜しそうに亜衣子を見ながらドアを閉めた。それと同時に、南條は再びドアフォンを押した。
「もうひとつお聞きしたいことが」
 ドアチェーンをかけていなかった。男がすぐに出てきた。ドアを半分開けながら、正面の南條ではなく、背後の亜衣子を探している。男の目の前に、南條が市販の手帳を開き、メモのページに、
 〈▽▽▽―〉
と書き込んで男に見せた。
「さっきの学生服のボタンというのは、こんなマークでは?」
 男は首を斜めに捻って手帳を覗き込んだ。
「マーク迄はちょっと。金色だったのが印象に残った程度で。こんなような形だったかも」
と目を上げたついでに亜衣子を探した。
「何か思い出したら、連絡を下さい」