と吐き捨てるように言いながら土岐と亜衣子を野球帽の庇で振り返った。南條は既に点灯している上りのボタンを何度も押し続けた。エレベータの籠が上層階から到着するとすぐに乗り込んだ。最上階の8階のボタンを押す。閉のボタンをせわしなく二度押した。亜衣子の背中を軽く押しながら最後に乗り込んだ土岐の背中をエレベータのドアがかすった。亜衣子はすぐに振り返り、軽くえびぞりになって土岐をすねたように三白眼で睨みつけた。軽い衝撃とともにエレベータはひどくゆっくりと上昇し始めた。歩いた方が早そうな速度だ。僅かだが左右に揺れているのとロープの軋みを感じた。エレベータの箱の中は町内会の案内やいたずら書きや引掻き傷で、にぎやかだ。換気扇が回っていない。お互いの服のかすかな臭いを我慢しなければならない。南條のダスターコートからかすかに樟脳の臭いがした。8階に着くと少しリバウンドしながらエレベータが停止した。エレベータの床とエレベータホールの床面が少しずれていた。南條が先に降りた。土岐は開を押しながら亜衣子が降りるのを見届けてから降りた。阿弥陀くじのようにひび割れた鼠色のコンクリートの通路に出た途端湿って薄ら寒い川風が三人を包んだ。南條が胡麻塩の鬢髪を川風になびかせる。空を眩しそうに仰ぐ。白っぽい青空には小さくちぎれた片雲が散見される。雨雲は見当たらない。雲がゆるやかに流れていた。非常階段は棟のはずれにあった。手摺の高さは一メートル程。鉄骨がむき出しの造りだ。暗緑色のペンキが所々はげかけていた。そこから赤茶けた鉄錆が広がりつつあった。8階から少し降りかけた非常階段の踊り場で南條は立ち止まった。
「ここから飛び降りた」
と手摺を軽く叩いた。甲高い空洞の響きが非常階段に伝わった。
「乗り越えようと思えば乗り越えられないこともない」
と土岐が少し腰を引いて恐る恐る階下を覗き込んで感想を述べた。
「身長はどのくらい?」
と亜衣子が神妙な面持ちで南條に尋ねた。
「中学生にしては大きい方で、160センチ以上あった」
「自殺をほのめかすブログって、いつごろ書き込まれたんですか?」
「当日深夜。ほぼ同時刻に投身だ。携帯は無傷で彼女のジャージのポケットにあった」
と南條は乾いた唇を土気色の舌でなめまわした。
「携帯電話を持って投身?それで、自殺って確定なんですか?」
「ここから飛び降りた」
と手摺を軽く叩いた。甲高い空洞の響きが非常階段に伝わった。
「乗り越えようと思えば乗り越えられないこともない」
と土岐が少し腰を引いて恐る恐る階下を覗き込んで感想を述べた。
「身長はどのくらい?」
と亜衣子が神妙な面持ちで南條に尋ねた。
「中学生にしては大きい方で、160センチ以上あった」
「自殺をほのめかすブログって、いつごろ書き込まれたんですか?」
「当日深夜。ほぼ同時刻に投身だ。携帯は無傷で彼女のジャージのポケットにあった」
と南條は乾いた唇を土気色の舌でなめまわした。
「携帯電話を持って投身?それで、自殺って確定なんですか?」