祭りのあと

その男が『きらりとしたバッジのようなものをつけていた』という目撃証言もあった。それは多分長田尊広に違いないのだが。だから敬子の事件に便乗して例のバッジを鑑識に調べさせることにした。だめで元々だ。そうであれば証拠品らしく同僚の刑事もいるので敬子の母親に心当たりを聞かなきゃならない。聞いてみたらピンポンだ。目が『見た』と語っていた。敬子の母親は保険金殺人の相談で長田尊広と打ち合わせしたときに多分あのバッジを見ていたのだ。ただし、尊広のバッジは中田組のにわか造りの代紋だ。敬子の母親は黒地に金泥文字だから同じ物と見誤ったがデザインがちょっと違う。俺が先日鑑識に回したのは奈津子がノイマン邸に入るために焼いた逆三角形が三つ串刺しになったメソポタミアの楔文字だ」
「ノイマン邸の会員バッジなら奈津子の父親が持ってたんじゃ?」
「多分持っていたのだろうが奈津子は父親が死んだとき、この犯罪と縁を切ろうとして処分したんじゃないのかな。処分した後でロサンゼルスのホスピタリティコンベンションに行ったついでにジェイムズ・ノイマンと会うために今戸焼きでこさえたんだろう。どう考えたって、会員バッジを焼き物で作るなんてえことは、ありえねえ話だ」
「そうか、それで分かった」
と土岐は左手の平を右の拳骨で打った。
「何がわかったんだ」
「これは、細かいことなんで、言ってなかったことですが、奈津子がアナハイムでノイマンの家に入るときに玄関先でもめたんです。奈津子は胸のバッジを見せたんでしょうけどそれでは中に入れてもらえずに仮装用のバタフライめがねを取って素顔を見せたらば家の中に入れてもらえたんです。そのとき、グーフィーの着ぐるみを着て、玄関にいたのは多分ジェームズ・ノイマンだったんだ。だから、奈津子がバタフライめがねをはずした瞬間に彼女だと分かったんだ。いわば、顔パスで奈津子はあの家に入れたんだ」
「オリエンタル・エンジェルだとでも名乗ったのかな」
「それは分かりませんが。父親の高志と去年、最後に来たときの面識があったのかも知れないですね。でも奈津子がこさえた焼き物のバッジを何でもっと早く鑑識に調べさせなかったんですか?そうしておけば敬子も奈津子も死なないですんだかも知れないじゃないですか」
と土岐は大きく手を振り上げて詰問口調で言った。
「お前は墨田署での俺の立場を知らない。定年間際ということもある