祭りのあと

「よく知らんが高志が死んだとき奈津子がノイマンに舞浜の方はやめたいと言い出した。やめることはできないので継続の意思表示として車のナンバープレートを3411とするようにとの指示があった。ナンバープレートを入手する迄の間、尊広が知り合いの板金屋に頼んで偽造した。その写真を撮ってノイマンに送った。そのとき尊広はノイマンにいずれ時が来たら奈津子を始末するように指示された。俺の目には尊広はそうしないですむようにそれなりに努力していたようには見えた。尊広は最後迄奈津子が自分の腹違いの妹であることを知らなかったのかも知れない。奈津子が尊広に言ったとは思えない」
 まな板で何かを刻む包丁の音が聞こえてきた。南條は、
「俺は担当じゃないんで舞浜署か墨田署の担当の刑事に話してくれ。通報は今日でもいいか?」
と少しよろめいて立ち上がった。
「いや今日はもう疲れた。逃げも隠れもしない。今日は休ませてくれ。身辺整理もせにゃならんし。どのようなもんであれ、故のない差別のある限り、犯罪に限らず、何らかの不幸はなくならないもんだ」
と中田老人は息苦しそうに言葉をしぼり出した。南條と土岐は客間を出た。廊下に鰹出汁の匂いが漂っていた。気配を察して和服の女が廊下を隔てた向かい側の部屋から出て来た。白足袋の爪先を滑らせるように蹴出しを翻らせて先に玄関に向かった。玄関先で跪くと奥襟を覗かせて象牙の靴べらを南條に両手で差し出した。南條の汚れきっていたモカシン靴が新品のように磨かれていた。
「安禄山へ行くか」
と南條は黒塀の外に出て肩を落として元気なく言った。いつになく疲れきった様子だった。
「墨田署でなくていいんで?」
と土岐は気を利かせたつもりで言った。
「墨田署へ行けば、中田老人のことを言わざるを得ない。いまさら職務怠慢を非難されることをおそれもしないが逃亡の虞れがないから夕方過ぎでもいいだろう。斉藤に電話で朝駆けの準備をさせてやろう」
と言う南條に腑に落ちないものを土岐は感じていた。

21 丑松の告白(エピローグ)

 春まだきの風が桜の花のつぼみの間を縫って土岐の頬をつめたく撫ぜた。町のたたずまいの色彩が少しずつ色めいて来たように見える。
 南條は両手をポケットに突っ込み、肩をがっくりと落とし、少し前かがみになって歩いている。