祭りのあと

クであったのかも知れない。しかしそれ以上にショックだったのは高志が去年臨終のベッドの上で奈津子と尊広の父親が俺であることを告白したことだ。それで奈津子はわが子の信夫がなぜ多くの障害を持って生まれてきたのかを悟った。奈津子は『好きな男はいるが結婚はできない』と言っていた。自分が部落の血を引いていることや両親の犯罪や自分の幼児期の裸体の写真が全米中に出回っていることがいつばれるかということを気にしながらでは『恋愛もましてや結婚等できない』と俺にあてつけがましく言ってた」
「そんな奈津子をどうやって扼殺した」
「奈津子は尊広に殺されることを覚悟してた。だからあの夜ここに来た。俺に頼んで来た。俺は見ての通り病人だ。手を下したのは尊広だ」
「扼殺は左利きだ。奈津子の喉に残った親指痕は左の方が大きかった」と言いながら南條は自分の両手で自分の首を絞める仕草をした。
「そんなことは知らない。尊広もさすがに奈津子の顔を見ながら首を絞めるのはしのびなかったんで奈津子の体に馬乗りにならないで奈津子の顔を足の間に挟んで締めた。そのとき奈津子は『抵抗できないように手を押さえてくれ』と俺に哀願してきた。全く抵抗しなかった。全く抵抗しなかったのは奈津子をこよなく愛していた俺に対する復讐だ。その夜連れて来た信夫は他愛なく眠ってたので一日ここで預った」
「奈津子の復讐というのは、どういう意味だ」
「奈津子は俺が溺愛していたことを肌で知っていた。しかし、奈津子が送った不幸な人生の殆ど全ての原因は俺にある。成長するにつれ、少しずつ知って行った。奈津子にとってどんなことでも聞き入れてくれる優しい伯父さんが自分の不幸の全ての原因だと知った時、その思いをどう解消すればいいか考えたのだろう。その俺に対する復讐で、
一番俺にこたえるのは奈津子の死だ。奈津子は自殺したようなもんだ」
 そこで土岐がおそるおそる一人ごとのように口を挟んだ。
「それで鬱血した指の痕が顎の下でなくて鎖骨の上の方にあった」
 そう言う土岐の顔を南條が見据えた。
「それはどういう意味だ?」
 南條の眼光に土岐の心臓を射抜くような鋭利さがあった。