と大きな硝子の灰皿で煙草を揉み消した。
「何が知りたいの?」
と眩しそうな目付きで亜衣子の顔を見上げた。
「とりあえず、事故死か自殺か」
と亜衣子がおずおずと答えた。南條はつまらなそうに煙草の火が消えたかどうか灰皿を確認しながら、そっけなく言う。
「自殺をほのめかすブログがめっかった」
「中学生がブログ書いてたんですか」
と亜衣子が甲高い声を出した。
「今どきの中学生はクラスの半分ぐらいが自分のブログをもってる。しかし書き込んだのは本人かどうかは分からん。筆跡もないし」
「だって、他人が書きますか?」
「書ける。なりすますのは簡単」
と南條が抑揚のない言い方をする。
「なりすます動機があります?」
と畳み掛けるようにして亜衣子の脇から土岐が聞くと、
「殺人ならありうる。携帯から本人の指紋以外は検出されなかった」
と南條はあくびをしながらねむそうに言う。
「ログはないんで?」
と亜衣子も身を乗り出すように聞いてきた。
「まあ腰掛けてよ」
と南條は息せき切って質問してくる若い二人を制した。机の脇にあるパイプの折りたたみ椅子を指差した。
「現場に行ってみる?本庁経由の紹介だから午前中だけ付き合う」
 亜衣子が即座に首肯した。南條は立ち上がると部屋の右側の壁に掛かっているホワイトボードの南條と書き込まれている欄の下に都営住宅と黒いマーカーで殴りつけるように書き込んだ。
「相棒への伝言だ。今行けば登校児童も出勤者も出払ったころだ」といいながら野球帽のつばを左右に動かしてかぶり直した。野球帽の縁に胡麻塩の細くバラけた髪が無造作にはみ出していた。よろめくようにして歩く南條の後に土岐と亜衣子が続いた。南條は一階の受付の前を通りながら右手で受付の事務官に会釈した。