祭りのあと

「墨田署の南條と申します。中田さんに伺いたいことがありまして」と南條は外連味のない声で言う。また、暫く間があった。
「まもなく帰宅すると思うんですが」
と落ち着いた声がする。
「それでは出直します」
と言ってから南條は腕組みをして黒塀の中をうかがおうとした。
「いるかも知れねえな。踏み込むには礼状がいる」
「逃亡のおそれはないんですかね」
と土岐が南條の顔を覗きこんだ。
「まあ空振りかも知らんが情光寺に行ってみるか」
と言いながら南條は通りに出てタクシーを探した。タクシーの溜まり場になっている格安のガソリンスタンドがあった。そこから出てきた個人タクシーを拾って言問通りに出た。十五分で情光寺に着いた。山門は民家程度の大きさでそれ程大きな寺には見えなかった。境内に小さな幼稚園がある。園児たちは全員帰ったあとで、ブランコが時折吹く風に震えるように微かに揺れていた。砂利敷きの駐車場を通って本堂の脇の庫裏の入口から南條が声をかけた。南條がもう一度声を掛けようとしたとき庫裏の奥の薄暗がりから剃髪したばかりの蒼い頭をした作務衣の若い僧が出てきた。手に梵字を書き込んだばかりの卒塔婆を持っていた。
「墨田署の南條といいますが、行旅の仏さんについて舞浜署から何か連絡がありましたか?」
と言いながら、南條は無意識のうちに内ポケットから警察手帳をのぞかせていた。
「明日、火葬にするので導師をお願いしたいという依頼がありました」
「それと関連して、中田という人がこちらに見えませんでしたか」
「ええ、見えました」
「どんな用だった分かりますか」
「喜捨とお布施をされて『行旅の霊を弔って欲しい』とのことでした」
「一万一千円ぐらいですか?」
「いえ、もう少しありました」
「じゃあ、十一万円程ですか?」
「いえ、もう少しあったかと」
「じゃあ、百十三万四千円ですか?」
「まあたしかそのくらいでした」
「どうもお忙しいところ、失礼しました」
と言いながらお辞儀をする南條の傍らで、
「ねんごろに弔って下さい」
と土岐も頭を深々と下げた。境内の外に出てから、
「中田老人も覚悟を決めて後始末を始めたようだ。一段落ついたら、お参りに来るか。はかないもんだ。あんな美人が骨だけになっちまうなんて」
と南條が土岐の肩に腕を回した。土岐はその腕を振り解きながら、