「最近見かけませんけど。ガンで尾竹橋病院に入院してるようです」
「たったいまあの突き当りの家に入っていきましたよ」
「あの家はカバン修理の作業場みたいで、お宅は別にあるようですよ。あのお宅一部屋しかなくて玄関から裏口へ通り抜けができるんです」
「しまった!」
と言うなり南條はその平屋に小走りに駆け寄り玄関の硝子戸から内部を覗きこんだ。土岐も覗きこんだが内側で引かれたカーテンの隙間から見える6畳程の部屋には誰もいなかった。6畳の奥に水回りの部屋がある。裏口のすり硝子の戸がかろうじて見えた。
「裏に回ろう」
と言いながら、南條はその路地を出た。尾竹橋通りを尾竹橋方向に歩き、五十メートル程行った小さな交差点を左折した。更に五十メートル程行って、車一台がかろうじて通り抜けられそうな路地を左折した。角に一時停止の交通標識が立っていた。そこから五十メートル程行くと先刻のトタン板の民家の裏手に出た。裏口から狭い路地を挟んで1メートル程の高さのグレーの金網に囲まれた駐車場。砂利の上に月極の利用者のネームプレートが立てかけてあった。その中に、
〈中田〉
と書かれた駐車スペースがある。車はなかった。
「裏口から抜け出して車で逃走したということですか?」
と土岐が南條に恐る恐る聞いた。
「尾行されたのに気づいたんですかね」
「かりに気づいたとしても、逃走した理由が分からん」
「本当にガンなんですかね?ひょこひょことは歩いてましたけどね」と言う土岐の言うことを南條は全く聞いていない。
「このすぐ近くだから、尾竹橋病院に行ってみよう」
二人は尾竹橋通りを尾竹橋方向に歩いた。尾竹橋を渡って尾竹橋病
院についたのは四時半頃だった。南條は受付ですぐ警察手帳を見せた。
受付には小太りの看護師がふっくらとした頬を赤くして座っていた。入口を入ったときはまた病気の老人かというような目付きで南條を見ていたが、南條の警察手帳を見てしゃきっとした。
「入院患者についてちょっと尋ねたいんだか。駅前で鞄を作っている中田という老人で、ガン患者らしいんだけど」
「男性ですか?」
「そう、年は七十代か、それより上か」
「少々お待ち下さい」
と言って看護師は入院病棟のナースステーションに内線をかけた。
「中田さんという男性患者なんですけど、今日、外出してますか?」
「たったいまあの突き当りの家に入っていきましたよ」
「あの家はカバン修理の作業場みたいで、お宅は別にあるようですよ。あのお宅一部屋しかなくて玄関から裏口へ通り抜けができるんです」
「しまった!」
と言うなり南條はその平屋に小走りに駆け寄り玄関の硝子戸から内部を覗きこんだ。土岐も覗きこんだが内側で引かれたカーテンの隙間から見える6畳程の部屋には誰もいなかった。6畳の奥に水回りの部屋がある。裏口のすり硝子の戸がかろうじて見えた。
「裏に回ろう」
と言いながら、南條はその路地を出た。尾竹橋通りを尾竹橋方向に歩き、五十メートル程行った小さな交差点を左折した。更に五十メートル程行って、車一台がかろうじて通り抜けられそうな路地を左折した。角に一時停止の交通標識が立っていた。そこから五十メートル程行くと先刻のトタン板の民家の裏手に出た。裏口から狭い路地を挟んで1メートル程の高さのグレーの金網に囲まれた駐車場。砂利の上に月極の利用者のネームプレートが立てかけてあった。その中に、
〈中田〉
と書かれた駐車スペースがある。車はなかった。
「裏口から抜け出して車で逃走したということですか?」
と土岐が南條に恐る恐る聞いた。
「尾行されたのに気づいたんですかね」
「かりに気づいたとしても、逃走した理由が分からん」
「本当にガンなんですかね?ひょこひょことは歩いてましたけどね」と言う土岐の言うことを南條は全く聞いていない。
「このすぐ近くだから、尾竹橋病院に行ってみよう」
二人は尾竹橋通りを尾竹橋方向に歩いた。尾竹橋を渡って尾竹橋病
院についたのは四時半頃だった。南條は受付ですぐ警察手帳を見せた。
受付には小太りの看護師がふっくらとした頬を赤くして座っていた。入口を入ったときはまた病気の老人かというような目付きで南條を見ていたが、南條の警察手帳を見てしゃきっとした。
「入院患者についてちょっと尋ねたいんだか。駅前で鞄を作っている中田という老人で、ガン患者らしいんだけど」
「男性ですか?」
「そう、年は七十代か、それより上か」
「少々お待ち下さい」
と言って看護師は入院病棟のナースステーションに内線をかけた。
「中田さんという男性患者なんですけど、今日、外出してますか?」


