祭りのあと

 南條はしばし考え込んだ。両手をポケットに突っ込んで動かない。
「そうだ」
と叫んで大阪府警の資料室で警察手帳に挟み込んだ写真を取り出した。若い浪江と子どもの尊広ともう一人の中年の男が映っている。顔の皮膚はたるみ髪は白髪になっているが、造作と輪郭は中田そのものに見えた。写真を土岐に見せた。
「この中年男は中田老人だ」
 土岐は写真を受取って凝視した。
「そう言われて見れば」
と言う土岐を尻目にそのスナップ写真を土岐の手から引き抜くと南條は町屋駅に向かって足早に歩き始めた。
「あの足なら簡単に追いつける」
と南條は土岐がついて来るのを確認すると小走りになった。南條の足は還暦を過ぎているとは思えない程速い。土岐もついて行くのがやっとだ。
 尾竹橋通りの手前で中田老人の背中を捕らえた。南條は二十メートル程の間隔を保つように歩度をゆるめた。老人は杖をつきながら尾竹橋通りを渡ると都電の踏切を背に尾竹橋方向に歩き始めた。晩秋のような陽光がアーケードにさえぎられて、老人の姿が日陰にとけて行く。
 南條は信号の変わり目に尾竹橋通りを渡り土岐は黄色になってから
横断歩道を越えた。老人は商店街を五十メートル行くと左に曲がった。曲がった途端に南條が走り出した。土岐もそれに続いた。老人が入った路地は幅2メートルもないような私道だ。すれ違うのがやっとだ。途中アパートの二階に上る鉄の階段があった。横にならないと通り抜けできなかった。老人は突き当たりのトタン葺きの小屋のような平屋に入って行った。入り口にすすけたペンキで、
〈カバン修理〉
という看板が見える。南條がその民家の手前十メートル程のところで立ち止まった。土岐もそこで南條と並んだ。南條は胸で大きく呼吸をしている。
「あすこが自宅か。ひどいあばらやだな」
「あの老人何かあるんで?」
「長田浪江とはただの従兄妹関係には見えなかった。あの写真が証拠だ。長田尊広とはほとんど面識がないというのは嘘だ」
「僕にはひなびて小柄なやさしそうな、ただの老人に見えましたけど」
「感想なんか聞いちゃいねえ。俺の勘は四十年の刑事人生で研ぎ澄まされた勘だ」
と苛立たしげに言う南條の後ろに通行人が近づいてきた。中年の女だった。南條は早速警察手帳を出して、その女の足を止めた。
「お聞きしたいことがあるんですが。あの家の老人をご存知ですか?」