祭りのあと

「殺害されて、その息子ともども引き取り手がいないんです」
「どうなるんです?」
と中田は首を上げて痩身を少し前に乗り出した。それに呼応するかのように南條が猿面冠者のような中田の顔をじっと見ながら答えた。
「彼女の両親の墓が谷中にあるんでそこに入れることに。火葬費用は警察が出さざるを得ないんで。行旅の場合は大手の葬儀屋がボランティアで無償で葬儀一切をやってくれるんですが」 
「長田尊広さんがなくなったとき男の子も一緒で。永山奈津子さんの息子さんで。その子も一緒に葬られることに」
と高橋が言い足した。
「母子で殺されたんですか。二人とも引き取り手がなくって。日本の人情も地に落ちたもんです。お寺は引き受けると決まってるんですか」と中田は少し声を詰まらせたように言った。
「お寺は多分、谷中の情光寺だったと思います」
と高橋が答えた。
 ひとしきり続いた会話が途絶えるのを待って無声音で土岐が聞いた。「さっき、言ってた、コウリョってなんですか?」
 南條もそれに応えて小声で話した。有声音だったので待合室の全員の耳に届いた。
「旅行するというような意味合いだが、葬儀屋は死者に弔意を表して行き倒れをそう言うんだ。対象はホームレスが多いな」
 春近い午後の陽がグラスファイバーの障子越しに待合室にこぼれていた。中田のぼそぼその銀髪が木漏れ日に鈍く煌めいていた。土岐は所在無く薄いお茶ばかり舐めるようにして呑んでいた。南條は浪江と規子と中田がどっちの手で茶碗を持って飲むか注意深く確認していた。浪江と中田は右手で飲んでいた。規子は手持ち無沙汰を紛らわすように左手でカラの湯飲みを持っていた。中年女性の事務員がお湯の入ったポットを持って来た。規子がそれを受取ってカラになったポットを事務員に手渡した。お湯を急須に入れて全員の湯飲み茶碗にお茶を注ぎ足した。ゆったりと時間が流れた。午後4時を過ぎた頃南條の携帯が鳴った。南條は取り急ぎ受信すると立ち上がって待合室を出た。部屋の者皆が耳をそばだてていた。電話は墨田署の斉藤刑事からだった。
「顔写真とレンタカーの〈わ〉と〈れ〉でNシステムを検索してみたんですが該当車両は検出されませんでした。時間を広げてみますか」
「あんたも手持ちの事案があるから、ひとまず、いいことにしよう」