祭りのあと

「お前はまだ若いからな。生きてゆくということは知り合った多くの人々の死に目に立会い続けるということだ。人の死が自分の生の節目を刻んでゆく。思い出を共有すべき人が思い出を語り合うべき人が一人また一人と死んでゆく。それが生きるということだ。失恋や離婚は死に等しい。もう同じ心で会えなくなるんだから。だから悲しい」
 南條の愚痴めいた話が終わる頃、火葬場に着いた。受付で長田尊広の火葬を確認した。南條は、
〈長田家〉
と書かれた狭い待合室に入った。まだ誰も来ていなかった。高橋刑事は長田浪江と規子の嫁姑と警察のワンボックスカーで尊広の棺とともに司法解剖を行った病院からそろそろやって来る時間になっていた。土岐は所在がないのでテーブルの上においてある茶器で、お茶を淹れて飲んだ。出がらしのようなまずいお茶だ。二杯目のお茶を飲もうとしたとき南條の携帯電話が鳴った。
「南條です。着きましたか。わかりました。すぐそちらに向かいます」
 告別室での導師の読経が省略された。いきなり火葬が始まることになった。南條と土岐が大理石の敷き詰められた炉前ホールに辿り着く。火葬炉の扉の前に高橋と浪江と規子が喪服に着替えて既に来ていた。洗いざらしの白いワイシャツと黒いネクタイを締めた隠坊が白い手袋の両手を動かして能書きを垂れていた。話し終えると、
「故人との最後のお別れです。長田尊広様のお顔を見てあげて下さい」
と台車の上の棺の小窓を開く。首から下げた真珠のネックレスをたらしてのぞき込んだのは浪江と規子の二人だけだった。つんつるてんの喪服に身を包んだ高橋は両手を前に結んで傍らに神妙に立っていた。土岐と南條は高橋から少しはなれて居心地悪そうに立っていた。規子がその二人を不審そうに一瞥した。高橋が二人を紹介しようとしたが南條が手を横に振った。隠坊が台車を炉の中に入れ炉の扉を閉めた。隠坊の誘導で全員が待合室に引き上げた。炉前ホールを出た上り階段の脇で高橋が前に出て南條と土岐を浪江と規子に紹介した。
「こちら墨田署の南條刑事で若い方は」
と言い澱んだところを南條が卒なく引き継いだ。
「浪江さんとは大阪府警でお会いしましたね。この助手は土岐明と言いまして永山整形クリニックで数日間、尊広さんと生活を共にした男です。見ず知らずの他人ではないのでお骨を拾わさせてあげて下さい」