「日曜日?何か事件があったんですか?」
「ニュース見てない?」
と深野が話の腰を折られたというような目つきで、
「朝刊に載ってなかったから事件性はないのかも知れないけど中三の女の子が都営住宅の八階から転落して死亡した」
「それ見ました。新聞の地方版でも読みました。報道のニュアンスだと自殺か事故か、という感じでした」
と亜衣子が相槌を打った。深野は、
「女子中学生だし、事件に巻き込まれることはないだろうし、それにくだんの都営住宅は飛び降り自殺で有名なところだから。中三だから自殺はあるかな」
と微妙だと言いたげな顔つきをする。亜衣子が、
「でも事故だとしたら、手摺の高さが一メータもあるのにどうやって転落したのかしら」
と不意に立ち上がった。胸の少し下あたりに左腕を添えてその高さに右足を上げようとする。土岐は、断言する。
「ということは、事故死ではない」
「でも多感な年頃だし、進学の問題もあるし、私だって、そのくらいの年には死にたいと思ったことがあったわ。だから」
と亜衣子が言いかけたとき、店の奥にある大型液晶テレビにそのニュースが流れた。三人とも一斉にその画面に釘付けになった。画面では、校長の記者会見の模様が流されていた。不意に亜衣子が、
「所轄の担当者に会ってもいいでしょうか?」
 深野は思わずうなった。亜衣子は、
「いいレポートを書きたいんです。この事件は参考になると思います。墨田署に話を通してもらえません?」
と畳み込んだ。深野は、
「必然性が感じられないけど」
と言いながら亜衣子の真剣なまなざしを見て、
「いいか。明日一日だけだよ」
と許可を出した。亜衣子がすぐさま、二の矢を放つ。
「直行、直帰でいいですか」
「報告に来てよ。できれば午前中に片付けて午後から出所してよ」
と深野は釘を刺した。そのやりとりに土岐は置いていかれた。
「それで、僕は?」
「君たちは二人でワンペア。部下のうら若い女性一人を所轄署なんかにゃやれないよ」
と深野は芝居じみた大見得を切った。
 午後、深野は本庁の同期の警視正を通じて、墨田署に話を通した。担当は定年間際の南條刑事と若い新米刑事とのことだった。