祭りのあと

「永山奈津子と」
「旦那は浮気のために大阪から東京迄来ていたということですか?」
 高橋の言い方には、それを信じていない、というニュアンスがある。
「そうです」
「ということはあの男の子は旦那と永山奈津子の間にできたということですか?そうなら、あの男の子はお孫さんということになりますね」と言いながら高橋は浪江の顔を見据えた。
「そう思うならDNA鑑定でもして」
と浪江は灰皿に灰を落とす。
「捜査状況によってそうすることもあろうかと思います」 
 隣の部屋で話を聞いていた南條は内線で取調室に電話を入れた。
「取調室」
と出たのは部屋の隅でメモを取っている若い刑事だった。
「ちょっと、高橋刑事を出してもらえますか。南條といいます」
 硝子越しに若い刑事が高橋に受話器をあげるのが見える。高橋は椅子を引いて座ったままで受取った。マジックミラーに背を向けている。
「南條です。気になることがあるので二人にお茶を出してもらえますか。そのとき茶碗は二人の体の丁度まんなかに出してもらえますか?」
「ちょうど?」
と高橋は復唱しかけてやめた。二人にきかれてはまずい情報であることを察知したからだ。南條も、
「しっ」
と言いかけた。
「わかりました」
と高橋は若い刑事に受話器を返しながら、
「小林君、そのポットお湯はいってるかな」
と机の上にあるポットを指差した。
「さあ」
と言いながら小林はポットを持ち上げてゆする。
「はいっているようです」
と答えるのを待って高橋は、
「申しわけないが、お茶を三ついれてくれるかな。君も飲みたきゃ、四つだ」
 小林はお盆の上に茶碗を四つ並べ、急須に茶葉を入れ、ポットのお湯を注いだ。暫くして急須のお茶を四つの茶碗に注いだ。一つの茶碗を自分の机の上に置き残りの三つの茶碗をお盆に乗せたまま高橋の傍らに運んだ。お盆から茶碗をおろそうとしたとき高橋がそれを制した。高橋は二つの茶碗を二人の女の体の正面に置いた。机が一人用なので浪江と規子は机の面から少しはみ出して座っていた。高橋の動作を見ながら南條が土岐に語りかけた。
「長田浪江は多分右利きだ。さっき右手でライターに火をつけた。だから煙草を持っていなければ体の正面の茶碗を右手で取るはずだ」