と高橋が最初に口を開いた。部屋の隅の机で若い刑事が壁に向かってメモを用意している。浪江はいきなり煙草を取り出し、右手でライターの火をつけた。規子はきょろきょろと部屋を見渡し、鏡を凝視した。南條と土岐は規子に見られている感覚に襲われた。
「午後にでも火葬にということだったのでご希望通り町屋の火葬場を
午後3時に予約しておきました。お坊さんは要らないということだったので、導師をお願いしていませんが」
「坊さんね、あんな者はいらない」
と浪江は鼻から煙を吐き出した。
「遺体を確認して、何か気になることはありましたか?奥さん?」
規子はオレンジのトルコ生地のフラワーアートジャケットにオリーブのドレープパンツで落ち着かない様子だ。薄ねず色の鉄格子のあるすり硝子の窓をながめている。
「特に何も」
と初めて口を聞いた。
それを見て南條が小声で土岐に話しかけた。
「亭主が死んだというのに悲嘆にくれている風情が全くないな。母親もそうだが。表情も泣いたような跡もないし。目も腫れぼったくなくてすっきりしているし」
土岐も小さい声で南條に語りかけた。
「何で昨日来なかったんですか」
「連絡が行ったのが昨日の早朝だった。どうせ東京に来るなら、ついでに火葬も済ませようということで。火葬場は今日しか予約が取れなかった。普通は昨日予約して、今日火葬できることはないが、警察からの依頼で、導師もいらない、たまたま空きがあったということかな。遺体を大阪迄運んで火葬にするとなると、それなりに大変だが、骨にしちまえば、新幹線で帰れるし、カネも、たいして掛からん」
「そういうことなんですか。人間が死んだというのに。それも身内の」「その人間と死ぬ迄にどういう接し方をしてきたかということだ。人様々だ。死に方も様々だ。あの二人を見ていると、長田尊広は既に、とうの昔から二人の心の中には、いなかったような感じだ。重荷が取れたというか。せいせいしたというか。厄介払いができたというか」
高橋の二人に対する聴取は続いている。
「奥さんかお母さんかどちらでもいいんですが、旦那はいつごろこちらに来たんですか?」
一瞬、嫁と姑がお互いを見合って、浪江が答えた。
「去年の夏」
「用件はなんですか?」
「さあ?」
「知らないということですか?」
少し沈黙があって、今度は規子が答えた。
「浮気していたんです」
「誰と?」
「午後にでも火葬にということだったのでご希望通り町屋の火葬場を
午後3時に予約しておきました。お坊さんは要らないということだったので、導師をお願いしていませんが」
「坊さんね、あんな者はいらない」
と浪江は鼻から煙を吐き出した。
「遺体を確認して、何か気になることはありましたか?奥さん?」
規子はオレンジのトルコ生地のフラワーアートジャケットにオリーブのドレープパンツで落ち着かない様子だ。薄ねず色の鉄格子のあるすり硝子の窓をながめている。
「特に何も」
と初めて口を聞いた。
それを見て南條が小声で土岐に話しかけた。
「亭主が死んだというのに悲嘆にくれている風情が全くないな。母親もそうだが。表情も泣いたような跡もないし。目も腫れぼったくなくてすっきりしているし」
土岐も小さい声で南條に語りかけた。
「何で昨日来なかったんですか」
「連絡が行ったのが昨日の早朝だった。どうせ東京に来るなら、ついでに火葬も済ませようということで。火葬場は今日しか予約が取れなかった。普通は昨日予約して、今日火葬できることはないが、警察からの依頼で、導師もいらない、たまたま空きがあったということかな。遺体を大阪迄運んで火葬にするとなると、それなりに大変だが、骨にしちまえば、新幹線で帰れるし、カネも、たいして掛からん」
「そういうことなんですか。人間が死んだというのに。それも身内の」「その人間と死ぬ迄にどういう接し方をしてきたかということだ。人様々だ。死に方も様々だ。あの二人を見ていると、長田尊広は既に、とうの昔から二人の心の中には、いなかったような感じだ。重荷が取れたというか。せいせいしたというか。厄介払いができたというか」
高橋の二人に対する聴取は続いている。
「奥さんかお母さんかどちらでもいいんですが、旦那はいつごろこちらに来たんですか?」
一瞬、嫁と姑がお互いを見合って、浪江が答えた。
「去年の夏」
「用件はなんですか?」
「さあ?」
「知らないということですか?」
少し沈黙があって、今度は規子が答えた。
「浮気していたんです」
「誰と?」


