祭りのあと

「今のところそうです。永山奈津子が性的暴行を受けたという所見もありませんでした。二人の司法解剖はかなり時間を掛けてやってみたようです。永山信夫は簡単だったようです。この男の子は溺死です。かなり海水を飲んでいました。鼻と口からきのこの形をした泡が観察されています。長田尊広はあまり海水を飲んでいなかった。体内からモルヒネが検出されました。推定量は0・5グラムで致死量です」
「でも、海水を多少飲んでいるんでしょ」
と南條が確認した。
「多分致死量のモルヒネを打ってから車に乗り虫の息になってから海に突っ込んだようで。致死量と言ってもモルヒネは少量であれば鎮痛剤ですから、個人差はありますが打ってから数分から数時間後に死に至るようです。それからモルヒネの注射痕が両腕にありました」
「モルヒネを麻薬として自分で打ったのなら両腕に打つことはない。とういうことは長田は殺害された。もう一人いたんだ。最初に長田ともう一人の犯人が奈津子を殺害し、そのあとで長田がモルヒネで殺害された。したがって、そのもう一人の犯人は三人殺したことになる。犯人は虫の息になった長田尊広をBMWに乗せ、港から転落させた」と南條は呻くように話しながら土岐を見た。二人は目を見合わせた。
「一昨日奈津子と尊広以外の人間が永山クリニックにいなかったか」
「いたかもしれませんが、全く気付きませんでした。だいたい永山奈津子が殺害されたことすら、全く気付かなかった」
と土岐が言うと高橋の目に険が走った。
「害者の家に同居していたというのはあなたですか?昨日誰かが事情聴取しなければならないとか言ってましたが」
と言う高橋の声に突き刺さるような棘があった。南條がフォローする。
「紹介が遅れた。この青年は俺の友人で土岐明という。この事件の内
偵をずっとお願いしてた。あんたにはまだ詳しく言ってなかったが今回の事件は奈津子と尊広の死だけにはとどまらない。まだ捜査中だが大量連続殺人事件に発展する可能性がある。土岐君は完全犯罪になりかけていたその事件を発掘し、その端緒を開いた、いわば功労者だ。
奈津子と尊広の死も土岐君に追い詰められた結果と言える」
「害者と同居してたとなれば重要参考人じゃ」
と高橋が気色ばむ。
「須玉署の刑事さんに全部話しました。南條警部補が身元保証人になってくれたのでこうしている訳です」
と土岐は弁解するように話した。